どらごにっくないと

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温泉へ行こう☆

  • 2008-06-30T10:55:33
  • 高原恵ライター
●オープニング【0】
「お客さん、ご存知ですか? ここから少し行った南の村に、温泉があるんですよ〜☆」
 白山羊亭の看板娘・ルディアが楽しそうに話しかけてきた。そういえば聞いたことがある。森近くの村にいい温泉があると。確か村の名前はハルフだったか?
「露天風呂はもちろん、他にもいくつかあるらしくて、行かれた方の話だとなかなかよかったらしいですよ」
 どうやら温泉の評判は上々らしい。ならば話の種に、1度は行ってきてもいいかもしれない。そう思い始めた時、ルディアが思い出したように付け加えた。
「あっ、温泉ですけど、混浴の所もあるらしいですから、入る時には気を付けてくださいね」
 なるほど……間違えて入ると、一騒動起こりそうだ。気を付けなければなるまい。
「新しい住人の方も増えたようですし、親睦を深めるためにも温泉はいいと思いますよ〜☆」
 知り合いと一緒に行くもよし、見知らぬ相手と語り合うもよし、単に1人でのんびりしてくるのもよさそうだ。とりあえず、どんな温泉に入って何をしてくるか、ある程度は決めておこうか――。

●凸凹コンビ【1B】
「温泉温泉〜♪ 思いっきり羽伸ばすぞー♪」
 そう言ってシフールの女の子、カファール・テンペストは大きく背伸びをした。もっとも、シフールだからさほど変わりはないのだが。
「カファ……俺の肩で何やってるんだ?」
 ムスッとした表情でラルラドール・レッドリバーがつぶやいた。足元まである赤く長い髪が歩く度に揺れていた。面白いことにカファールも似たような容姿で、まるでラルラドールの縮小版であった。カファールの言葉を借りれば『ラルりんがおいらの拡大版なんだよ』ということになるようだけれども。
「背伸びだよ〜」
 明るく答えるカファール。ラルラドールの肩の上に乗ったままで。
「温泉温泉〜♪ 思いっきり羽伸ばすぞー♪」
 先程の台詞を繰り返すカファール。調子に乗ってか、今度は踊り出した。
「ったく、てめえ! 大人しくしてないと、払い落とすぞ!」
 これにはさすがにラルラドールも怒った。叱られ、ぴたっと踊りを止めるカファール。
「ラルりん、そんなに怒らないでよ〜。一緒に温泉行くんだしー」
 カファールとラルラドールは、ハルフ村に向かうため街道を歩いていた。正確には歩いているのはラルラドールだけで、カファールはその肩にちょこんと乗っているのだけれど。 目的は先程から何度もカファールが言っているように温泉に入るためだ。何しろ2人の居るフレイアースは砂漠の世界。たっぷりの湯に浸かる機会など滅多にない。それゆえに、カファールはもちろん、ラルラドールも内心では喜んでいた。
「温泉といえば、卵〜、お饅頭〜、美味しいもの一杯食べられるんだよね〜☆」
 再び踊り出すカファール。温泉以上に食べ物の方に興味があるようだ。
「だーっ、だから踊るなっ!」
 再びラルラドールが叱った。

●ハルフ村【2】
 森近くにあるハルフ村に着くと、日はだいぶ傾いていた。夕暮れも間もなくのようだ。
 村に入ってすぐ気付くのは、立ち上る湯煙と独特の温泉の匂いだ。温泉に来たのだという気分が高まってくる。
 村人に尋ねた所、温泉が見つかったことで村を訪れる者が急増したそうだ。急ピッチで施設を整え、旅人を迎える態勢を作り上げたハルフ村。この分なら、数年後には街と呼ばれるくらいまで発展しているかもしれない。
 しかしそんな数年後の話は別にいい。とりあえず現在だ。村人に宿の場所を教えてもらい、すぐにそちらへ向かった。

●癒される男に、売る男【3A】
「ふう……こうるせー上司から離れるってのはやっぱいいよなあ」
 しみじみとつぶやき、ラルラドールは温泉の湯で顔を洗った。湯舟が大きく波打っていた。
 ここは露天風呂の男湯だ。いくつもの岩で造られた湯舟の中にはラルラドール1人が、そして空には月が浮かんでいた。
 余談ではあるが、ラルラドールが入って来ると、入っていた男たちが慌てて露天風呂から出ていった。どうやら髪を上に結わえていたせいで、女性に勘違いされてしまったらしい。まあ、それでこうして1人で露天風呂を占領できている訳だが。
「ゆっくり月見酒とでもいきたい所だが」
 ちらりと右の方へ視線を向けるラルラドール。そこには赤いバンダナを巻いたエルフの男が、ドラゴンのヴィジョンを召喚して酒樽を運ばせている所だった。酒樽に温泉を詰め運んでゆくヴィジョン、そうそう見られる光景でもない。
「何やってんだ?」
 ヴィジョンが戻った頃を見計らって、ラルラドールがエルフの男、イリアスに声をかけた。
「あ、邪魔やったやろか? 見ての通りですわ。温泉詰めてましたんや」
「また面白いことやってんな。それでどうするんだ?」
「決まってますやろ、売りますねや」
 イリアスが指で輪を作って見せた。
「……売れるのか?」
「売れるんちゃいます、売りますんや。ここがわいの腕の見せ所や」
 ぽんぽんと腕を叩くイリアス。
「温泉は入ってよし、飲んでよし。酒をこれで割ってもええんちゃいますか?」
「人の入った湯をかよ?」
 冷めた目で見つめるラルラドール。確かに今ヴィジョンが汲んでいたのは、ラルラドールの入っていた湯舟からである。
「舐めたらいけまへんな。飲用は別に確保しますわ。商売人は信用第一やで? お天道様に顔向けできんことはせん主義や」
 胸を張ってイリアスが答えた。商売における、彼の確固たる信念だった。「ならいいけどよ。ともあれ、売れるといいよな」
 ラルラドールはそう言って、傍らの酒に手を伸ばした。

●お約束☆【4A】
「混浴つっても、男湯と変わらねえな」
 そうつぶやき、コップの中の酒をくいっと飲み干すラルラドール。
 話の種にでもと思い、男湯から混浴の露天風呂へと移動してきていた。しかしこちらも岩造りの湯舟。変わったのは風景くらいだ。
 入れ違いに他の客が上がってゆき、またもやラルラドール1人の独占状態であった。
「こんばんはっ☆」
 そこに胸までしっかりタオルを巻いた美優が飛び込んできた。美優に手を引かれ、エルフの女性メリッサがそれに続く。こちらは肌の露出の少ない水着姿。無難な格好である。
「ご一緒してよろしいですか?」
 メリッサがラルラドールに尋ねた。
「別に俺のもんじゃねえし、ここ混浴だろ? 断る必要ないんじゃねえの?」
 ラルラドールは酒をコップに注いだ。
「そうですね、では」
 静かに湯舟に入るメリッサ。美優も湯舟に入ると、すすっとラルラドールのそばへ近寄っていった。
「わあ、美味しそうなお酒ですね。私も飲みたいな☆」
「タダではやれねーよ。何か芸でもやってくれりゃ、飲ませてやるけどよ」
 ほどよく酔っていたラルラドールは美優にそう言うと、コップに口をつけた。ラルラドール、まだまだ飲む気十分らしい。
「そうですか。なら、私の裸でい・か・が☆」
 悪戯っぽく言う美優。ラルラドールは酒を吹き出し、メリッサが慌てて美優のそばへやってきた。
「なっ、何をいきなりっ!」
「美優さん、何をっ!」
 慌てる2人を尻目に、美優は湯舟から立ち上がるとタオルに手をかけた。
「それぇっ♪」
 一気にタオルを取り払う美優。ラルラドールはとっさに目を閉じた。しかし――。
「……あら」
 聞こえてきたのは、メリッサの拍子抜けした声。ラルラドールは恐る恐る目を開いた。
「下に水着を着てらしたんですね」
 ほっと胸を撫で下ろすメリッサ。
「とーぜん☆ お約束ね♪」
 明るく答える美優。タオルの下に、肌露出の大きい水着を着用していたのだ。
「驚かせんじゃねえっ!」
 怒るラルラドール。そんな時、3人の耳に女性の悲鳴と、男の悲鳴が聞こえてきた。
「あれっ、今の声は確か……」
「……友人の声に似ていたような」
 美優とメリッサが口々につぶやいた。
「ま、いいか。お酒くださいな☆」
 湯舟に再び浸かり、ラルラドールに両手を差し出す美優。
「ほらよ」
 苦笑しつつも、ラルラドールはコップを美優に差し出した。メリッサがくすりと微笑んだ。

●原因を作ったのは【5A】
「遅いぞ、カファ」
 温泉の出入口で待っていたラルラドールは、ようやく出てきたカファールにそう言い放った。
「ラルりん、顔赤いよ?」
 ラルラドールを一目見て、カファールが言った。ラルラドールの身体は、温泉と酒との相乗効果でほかほかとしていた。顔だけでなく、浴衣から覗いている肌が全て赤い、「ああ。ちょーっとのぼせたかもな」
 額に手を当てるラルラドール。……酒のせいのような気がしないでもないのだが。
「ねえねえ、ラルりん。天使とドラゴンの大決戦って知ってる?」
 カファールが無邪気に尋ねた。
「? 何だそりゃ?」
 ラルラドールがきょとんとした表情を見せた。
 この後食事に行った2人は、カファールの言葉を意味を教えられることになる。そしてその原因を作ったカファールは、ラルラドールにまたもや叱られるのであった――。

【温泉へ行こう☆ おしまい】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別 

             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 5565 / ラルラドール・レッドリバー / 男 
           / ヒュムノス / 21 / 戦士 】
【 7315 / カファール・テンペスト / 女 
     / シフール / 18 / ヴィジョンコーラー 】
【 7411 / イリアス・ファーレロン / 男 
      / エルフ / 32 / ヴィジョンコーラー 】
【 5423 / 天本・美優 / 女 
            / 地球人 / 22 / 地球人 】
【 7204 / メリッサ・ローズウッド / 女 
            / エルフ / 23 / 風喚師 】
【 5583 / アリア・リメル / 女 
    / ヒュムノス / 20 / ヴィジョンコーラー 】


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■         ライター通信          ■
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・『白山羊亭冒険記』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通されると、全体像がより見えてくるかもしれませんよ。
・『白山羊亭冒険記』では、高原は明るい冒険を出してゆこうかと思っています。温泉が登場する冒険は、これからも度々出てくるかもしれませんよ。
・今回は面白いことに、ファンシィウッズ・フレイアース・アクアシーズと各々2人ずつにくっきりと分かれていました。ですので構成時に多少考慮してみました。また、皆さんのOMCイラストに1度目を通してから書いております。
・今回のメインは温泉でしたので、温泉に入っている場面を中心に描いています。本文では触れられていない行動もあるかと思いますが、ほぼ問題なく行われていますのでご心配なく。
・ラルラドール・レッドリバーさん、実は危険が迫ってました。カファールさんのプレイング次第では、えらいことになっていたかもしれません。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。
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