どらごにっくないと

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この女は俺のもんだっ!!

  • 2008-06-30T13:12:46
  • 高原恵ライター
●オープニング【0】 ガシャーンッ!!
 黒山羊亭店内に食器の割れる音が響いた。それに続いて男の怒号が。
「てめえっ! 俺の女に手を出すたぁ、いい度胸じゃねえかっ!」
 見ると、口髭をたくわえた熊のような大男が、小柄で細身な青年に文句をつけている所だった。
「ぼ、僕のリタに手を出したのはそっちじゃないですかっ」
 リタというのは2人の男の間でおろおろしている女性のことだろう。美人とまではいかないが豊満な肉体を持ち、喧嘩の原因になるのも分かる気がする。
「面白い。俺とこいつで蹴りつけるか?」
 拳をぐっと突き出す熊男。
「い、いいですよっ」
 その青年の言葉に誰もがここで乱闘が始まると思ったその時、エスメラルダの声が飛んだ。
「ちょっと。場所は変えてくれないかしら」
 エスメラルダの言葉に、水を差された形になる2人の男。
「なら明日早朝、街外れの空き地はどうだ。何なら助っ人を連れてきてもいいぜ。この俺、ガルへの助っ人も大歓迎だ!」
 他の客を見回してガルが言った。
「の、望む所ですっ。僕、ボブについてくれる方も居られますよねっ?」
 同じくボブも他の客を見回した。リタはただおろおろするばかり。
 さて……どうしたものか。

●赤い髪の2人【1D】
 ガルとボブの言い争いは、店に居る者たち全員の注目の的となっていたが、その視線の中には当然ながら静かに酒を飲んでいた客の物も含まれている。
「……ラルりん、どうするの?」
 料理の付け合わせのポテトを食べる手を止め、シフールのカファール・テンペストが言った。もっとも食いしん坊であるカファールにしてみれば、止めるのは手ではなく口なのだが。
「1人の女を2人の男が取り合うだなんて、よくできた話じゃねぇか」
 そう言ってワインをあおったのは、ラルラドール・レッドリバーだ。しかし、その後にこう付け加えるのを忘れなかった。
「もっとも、どちらも『王子様』なんてガラじゃなさそうだが」
 確かにガルもボブも、リタの隣に居るにはもう1つ何か欠けているような気がしないでもない。
「……ラルりん、どうするの?」
 同じ台詞を繰り返すカファール。ラルラドールの答えを待っていた。
「ここは一丁、リタの気持ち聞いてみるか?」
 少し考えてその言葉を口にしたラルラドールに対し、カファールは意外そうな表情を向けた。
「ラルりんらしくないけど、いい考えだね☆」
「何か引っかかる言い方だな、それ」
 何はともあれ――2人はリタが1人になるのを待ってから、リタに近付いた。

●衝撃の告白【2B】
 リタを目の前に男が2人座っていた。1人は赤く長い髪の、もう1人は白銀の髪の男だ。共に背は高いが、白銀の髪の男の方が頭1つ抜けており、肩幅も大きかった。
 ここは黒山羊亭ではなく別の酒場だ。リタに話を聞くべく場所を変えたのだが――。
 赤い髪の男、ラルラドール・レッドリバーは何とも言えぬといった表情で頬杖をついていた。白銀の髪の男、ラモン・ゲンスイも似たような表情で襟足を掻いていた。2人がこんな様子なのも、リタが口にした言葉が原因だった。
「難しい顔してどうしたの、ラルりん?」
 テーブルの上に居たシフール、カファール・テンペストが不思議そうにラルラドールに尋ねた。その隣には同じくシフールのディアナ・ケヒトが居る。カファールの目の前には食べ物が、ディアナの目の前にはワイングラスがそれぞれ置かれていた。各々何に興味があるか、よく分かる。
「何つーか……予想外の答えが返ってきたからな」
 答えるラルラドール。それに続けてラモンが口を開いた。
「うむ……予想以上の答えだ」
 2人がどのような予想を立てていたかはさておき、リタの答えはそれだけのインパクトがあったようである。
「でもそれがリタの本当の気持ちなんだよね?」
 リタの顔を見上げ、ディアナが言った。少し頬が赤いのは酒のせいだろうか。
「だから、あの2人になかなか言い出せなくって……」
 そう言ったリタはばつの悪そうな顔をしていた。
「けれどもそういうことは、最初にきちんと言うべきだったろうに。それを怠ったのは、不手際だったな」
「そうだぜ。だからあんな騒動になっちまったんだ」
 口々に苦言を呈するラモンとラルラドール。リタが目を伏せた。
「ラルりんもラモりんも、そんなにリタりん責めちゃだめだよ〜」
「そうだよ。それよりも、どうするのが一番いいか考えなきゃ」
 カファールとディアナが2人に言った。
「別に責めてはいないんだが……どうする、ラルラドール」
 ラモンがラルラドールに話を向けた。
「どうするつってもなあ。……いっそ一芝居打つか?」
 ラルラドールのつぶやきに、皆の視線が集まった。

●早朝の決闘【3】
 さて、翌日早朝。街外れの空き地には、各々助っ人を引き連れたガルとボブの姿があった。もちろんそれを心配そうに見ているリタの姿と、面白そうだということで集まった野次馬の姿もあった。その中には赤い髪の長身の男や、白銀の髪を後ろで結んだ2メートルを越す大男の姿、そしてそのそばで飛んでいるシフールの姿もあった。
「あふ……」
 口元を隠しながら小さな欠伸をしたのはエルフの女性、メリッサ・ローズウッド。早朝ということでどうなることかと思ったが、何とかベッドから抜け出しこの場にやってきていた。しかしまだ本調子ではない。
 ちなみに今日のメリッサの服装は、ズボンにオーバースカート。野次馬の中にはメリッサがボブの助っ人をすると聞きつけてやってきた者も居た。彼らが期待していたのは黒山羊亭でのメリッサの姿だったが、その期待は脆くも崩れ去っていた。
「ほう、頭数だけは揃えてきたようだな」
 ニヤニヤと笑いながらガルが言った。それに対し、ボブがガルをびしっと指差した。
「ぜ、絶対に負けませんからねっ!」
「しゃらくせえ! 返り討ちにしてやらあ! おう、てめえら! 思う存分やっちまえ!」
 ガルのその言葉を合図に、決闘が始まった。
「風よ! 彼の者の性格を変えよ!」
 すかさずメリッサが先手を打った。『大気の乱れ』を放たれ、風に身を包まれるガル。しかしこれといって変わった様子もなく、ボブの方へ突進してゆく。(失敗したっ?)
 そしてメリッサが次の行動に移ろうとした時、決闘に乱入してきた者が居た。赤く長い髪の長身男、ラルラドール・レッドリバーの登場だった。
「なかなか面白いことやってんじゃねえか! けどてめえらにあの女は相応しくねえよな! 女がこの俺がもらった!!」
 突然の乱入者に驚く両陣営。それとは逆に盛り上がる観客たち。ラルラドールはリタを抱きかかえると、こう言い放った。
「本当に女が大事なら、自分の力でここまで取りに来てみな!」
 リタを抱え距離を取ってゆくラルラドール。こうなると決闘は一時中断。まずはリタを取り戻さなければならない。
「てめえ! 女を返しやがれっ!」
「ぼ、僕のリタを返してくださいっ!」
 ガルとボブがラルラドールへ向かってゆく。するとラルラドールが叫んだ。
「いでよ、アステリオン!」
 その叫びと共に、スフィンクスのヴィジョンが呼び出され姿を現した。思わず立ち止まるガルとボブ。
 実は――このヴィジョンはラルラドールが呼び出したのではない。実際に呼び出したのは、ラルラドールの背中に隠れている、シフールのカファール・テンペストだった。だが事情を知らなければ、ラルラドールが呼び出したように見える。その通り、2人はラルラドールが呼び出した物だと勘違いしてしまった。
 カファールがアステリオンに特殊能力を使用させた。使ったのは『読心』――ガルとボブの心を読み取ろうと試みたのだ。
(あれっ?)
 2人の心を読み取ったカファールが首を傾げた。何か妙なことでもあったのだろうか。

●真相【4】
「おいおい、芝居はもうその辺でいいのではないか?」
 そう言って野次馬の中から、白銀の髪の大男がずいと前に出てきた。普段目にするような鎧とはまた違った形の鎧を身にまとい、腰には大太刀を差している。歴戦の戦士である侍、ラモン・ゲンスイの戦闘時の姿であった。
「し……芝居だあ?」
 眉をひそめ、ガルが言った。
「ミリティア出ておいで!」
 ラモンのそばを飛んでいたシフール、ディアナ・ケヒトが聖獣カードを手にヴィジョンを呼び出した。たちまちエンジェルのヴィジョンが姿を現した。
「喧嘩は駄目だよ〜、リタの気持ちを聞いてあげなきゃ」
 ミリティアと共に、ガルとボブの説得に入るディアナ。それが効を奏したのか、渋々ながらに2人はリタの話を聞くことにした。ラルラドールが抱えていたリタを降ろした。
「ほら、俺たちに話したことを、あいつらに言ってやれよ」
 前髪を掻き揚げつつラルラドールが言った。
「ごめんなさいっ! 私が好きなのは……」
 リタの言葉にこの場の全員が注目した。
「……彼なんですっ!」
 リタが1人の男を指差した。だがそれはガルではなく、ボブでもなかった。
「こ……子供っ?」
 リタが指差した相手を見て、唖然とするメリッサ。そう、リタが指差した男は、野次馬の中に居た、見た目もまだ可愛らしい少年だったのだ。
 驚いたのはメリッサだけではない。昨晩聞いていたラルラドールやラモンはもちろん、ガルやボブもそうだった。そしてざわめく野次馬たち。
「そ、そんなぁっ……」
 その場にがっくりと膝をつくボブ。よほどショックだったようだ。
「ごめんなさいっ! そうだから、言い出せなくって……!」
 何度も頭を下げ謝るリタ。本当に好きな相手が年端もいかない少年では、確かに言い出しにくい訳である。
「とまあそういう訳だ。これ以上の戦いは無意味ではないか? どうしてもと言うなら……俺がお相手しよう」
 すっと足を開き、身構えるラモン。冗談ではなく、顔が本気だった。
「ねえねえ、ラルりん」
 カファールが小声で言った。
「あの熊さん、変なこと考えてるよ。『用済みになったら売り飛ばす』って。これ、どういう意味?」
「何ぃっ!?」
 カファールの報告を聞いたラルラドールは、ガルを睨み付けた。
「てめえ……リタを売り飛ばす気だったんだな!」
「ええっ! そんなの酷いよっ!」
 ディアナが抗議するような視線をガルに向けた。
「く……くそうっ!!」
 ガルがラルラドールへ突進してゆく。
「このっ……女の敵っ!!」
 怒りに燃えたメリッサがガルに『かまいたち』を放った。風の刃がガルの身体を切り裂き、所々から血が滲み出した。
「うがあっ!」
 痛みにガルの足が思わず止まった。そこに迎え撃とうとやってきたラルラドールの拳がうなった。
「まだまだ!」
 ガルの顔面にラルラドールの拳が直撃した。
「うげっ!!」
 そして最後の一撃。走り込んできたラモンが、大太刀『無吐竜』を鞘に納めたままガルの身体をぶっ叩いた。
「貴様のような奴は鞘で十分だ!!」
「あぶぅっ!!」
 吹っ飛ばされるガルの身体。音を立て地面に落ち、ピクピクと身体を痙攣させていた。
「全く……とんでもない奴だわ」
 メリッサはそう言って溜息を吐いた。
「同感だぜ」
 メリッサの言葉に頷き、ガルの足を踏み付けるラルラドール。
「後で警備の兵に引き渡すとしよう。この分だと、他にも色々とやっていそうだからな」
 ラモンがそう言い、後ろを振り返った。いつの間にか2体のヴィジョンは姿を消し、リタと少年が2人仲良く並んでいた。その頭上をカファールとディアナが楽し気に舞っていた――。

【この女は俺のもんだっ!! おしまい】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 7315 / カファール・テンペスト / 女 
     / シフール / 18 / ヴィジョンコーラー 】
【 5565 / ラルラドール・レッドリバー / 男 
           / ヒュムノス / 21 / 戦士 】
【 4062 / ラモン・ゲンスイ / 男
          / ヒューマン / 34 / 冒険者 】
【 5967 / ディアナ・ケヒト / 女
     / シフール / 18 / ヴィジョンコーラー 】
【 7204 / メリッサ・ローズウッド / 女 
            / エルフ / 23 / 風喚師 】


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■         ライター通信          ■
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・『黒山羊亭冒険記』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通されると、全体像がより見えてくるかもしれませんよ。
・『黒山羊亭冒険記』では、高原はちと裏があったり、危険だったりする冒険を出してゆこうかと思っています。
・さて、このような結末を迎えた訳ですが……この結末は皆さんの予想通りだったのでしょうか? 高原は少々反応が怖くもありますが……。
・ちなみに万一リタに誰もつかず、ガルが勝利していたらバッドエンドでした。皆さん、高原の罠を上手くかわしましたね。
・ラルラドール・レッドリバーさん、2度目のご参加ありがとうございます。一番過激なプレイングだったんじゃないかと思います。ということで、本文中のようなことになりました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。
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