どらごにっくないと

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お台場のマーライオン

  • 2008-06-30T15:09:43
  • 響愛太郎MS
【オープニング】
東京。もう夏めいた日差しが煌く若者の街の一つ。お台場。
 海辺に面した潮騒の音も聞こえる大地にそびえるのは、どれもこれも近代的な建物だ。
 その中でもひときわ目立つお台場の顔、「お台場テレビ」。出来上がった頃は大変話題になったような風変わりなデザインの建物である。
 このテレビ局の視聴率は他社に比べても現在、いい数字をキープしている。
 二人の優秀なディレクターがそれぞれの覇権を駆使して、面白いテレビ番組つくりに試行錯誤している結果でもあった。

『はい、あれです。あれを見てください! カメラさんいいですか! 今、あのボートの上に、だいちゃんが顔を出して、いま、いま乗りあがろうとしていますっっ』

 テレビ番組の朝の顔。ワイドショー。
 最近の話題として、すっかりお茶の間にもなじんできた珍獣の存在がある。
 お台場の海に住み着く真っ白な、顔は獅子、下半身は魚のような、けして動物園では見ることのできない不思議な生き物。
 しかし、どこかで見たことがあるような・・・・。
『専門家の話では、伝説上の生き物『マーライオン』にとても近い生き物と思われます。これを聞いて「マーちゃん」と呼ぼうという話もありますが、やっぱりお台場で見つかって住み着いてるのですから、私は「だいちゃん」が妥当と考えるのですが、いかがでしょうか?』
 レポーターの興奮した声が響く。
 そのふさふさの毛をもつ、笑った顔のような表情の不思議な珍獣は、日向の暖かさにふわりとあくびをして、取り残されたボートの上でころりと寝返りをうった。
 野生の動物の無邪気な自由奔放さ。和み系の生き物ナンバーワンとしての世間の認知度は高い。

 しかし。
「‥‥あの生き物は、神帝軍の手下のサーヴァントに他なりません」
 眉をしかめ悲しそうな表情で告げる伝(つて)の前で「‥‥やっぱりか」と呟く魔皇の少年が一人。私立弁天学園高校の制服を着た彼の名は、寿・樹也(ことぶき・みきや)。
 お台場で深夜カップルが立て続けに行方不明になっているという、テレビでは報道されない事件の噂。
 それを聞き、彼は伝に相談してみたのだった。あのテレビで報道されている生き物、あれはけして地球上に存在してはいけないモノだ・・・。
「どういたしましょうか?」
 尋ねる逢魔に魔皇の少年は頷いた。
「昼間は常にカメラに追い掛け回されてるけど、夜はさすがに誰もいなくなるみたい。・・・・夜になると人を襲いに陸に上がってくるんだろうから、そこをしとめるしかないよね」
「そうですわね」
 頷く逢魔。樹也は表情を明るくし、伝に向かっていった。
「誰か力を貸してくれる人を探さなきゃ、だね」

【本文】
お台場のマーライオン
●お台場の人気者
 夏休みに突入し、ただでさえ人の多いお台場は、いつも以上に賑わっているようだ。
 ショッピングセンターや屋内型テーマパーク、巨大観覧車など、皆を楽しませるための施設が毎年のように増設され、新しい街だけに暗い一面があまり目立たないこの街は小中学生でも安心して遊びに来られる場所なのだろう。
 夕暮れと近づき、赤く焼けてきた空の下でもまだ、たくさんの人々が群れている。
「‥‥ふぅ、暑いわね」
 お台場海浜公園と名づけられた砂浜に近づき、金色の髪をなびかせサングラスの美女はつぶやいた。
 リスティ・エルム(w3b823)である。有名人である彼女は、こんなに人出の多い場所では顔を隠すしかない。それでも砂浜に歩く人々が、可憐な容姿に何やら噂をすることを少し恐れてもいた。
「カップルが行方不明になってるのなら、カップルに偽装しちゃえば遭遇するんじゃないかと思うんだけど‥‥」
 ひとりごちるようにつぶやく彼女に、派手な衣装の逢魔がたずねる。
「どうするですか、マスター? ナンパするですか」
「そうねぇ‥‥なんとかなるわよ」
 得意の演技でも使ってどうにか‥‥と考える彼女。
 とりあえず、誰か手近な人物に声をかけてみるか。
 と顔を上げたところで、自分に向かい近づいてくる青年の影を見つけた。黒髪に茶色の瞳の、彫りの深い端正な顔立ちの青年。背は高く均整のとれた体つきがどこかセクシーである。
「決めた」
「あ、マスター」
 逢魔の呼ぶ声も聞かず、リスティは彼に話しかけた。
「あの、よ、よかったらお茶でも、しませんか?」
「リスティさん‥‥だよな?」
 青年は戸惑った様子で、頬を染めたリスティに問い返す。
「俺はジザ・ウィリアム。‥‥よろしく頼む」
「‥‥あ」
 お仲間の魔皇のようである。さらに赤く染まったリスティの背後で逢魔が笑った。

 ジザ・ウィリアム(w3b074)と共に、リスティは海浜公園を歩いていると、砂浜の先で村雲・陣(w3b184)と逢魔が手を振っていた。
 クールな容姿に寡黙な雰囲気を漂わせる陣と逢魔はカップルを装ってきたらしい。腕を組み、逢魔はどこか幸せそうだ。
 さらに、彼らが集まるのを見つけて、陣達からつかず離れずにしながら、逢魔と遊んでいたキーネ・時樹深(w3a781)も駆け寄ってきた。
「私、朝早くから来てたんだよ。マーちゃんのことなら任せておいてっ!」
 大きな瞳がとても可愛らしい童顔なうえに、ナイスバディなキーネは、ワンピースをひらりと揺らしながら、仲間に微笑んだ。
「今日のマーちゃんの出現ぽいんとはあっちだよ」
 お台場海浜公園からの眺めはレインボーブリッジも有名だけれど、昼間はウィンドサーフィンを行う若者達の姿も景色を楽しませてくれる。
 その眺めを楽しみながら歩き、ヨットが多く泊まる埠頭までキーネは皆を案内した。
 確かに人の集まりがそこに出来ていた。
 テレビカメラも来ていて、レポーターが興奮した様子で、腕を振り回しながら実況していた。
 無人のヨットの甲板によじのぼり、水から上がってふわふわのたてがみをぶるるんと振り回すマーライオン。
 顔は猫科の生き物そのままで、どこかとろんとした眠そうな表情がまた味をみせている。
「マーちゃあぁぁん」
 その様子を眺める子供達が叫んだ。
「だいちゃん、の方がいいと思うんですけど‥‥」
 レポーターが突っ込みを入れる。
「マーちゃんー、こっち向いてぇ」
 それを解さず他の子供がまた叫んだ。まあいいか、といった表情で、レポーターはさらに実況を続けた。

「あんなに可愛い顔してるのに‥‥」
 その人ごみを後ろで見ながら、キーネがぽつりと呟く。
 本当にあの無邪気な顔をした生き物がサーバントで、人を食らったりするのだろうか。
 夕焼けが沈み、宵闇に近づいていく。
 水に再びもぐってしまったマーライオンの撮影をあきらめ、レポーターは機材をしまい、局に戻った。眺めていた子供達も、親に連れられて一人、また一人と去っていく。
 だんだん静かになっていくお台場で、魔皇達もそろそろばらけようかと、互いの携帯番号を交換し、それぞれ散っていった。

●水の魔物
 静かになったお台場の海。
 街頭で照らされた静かな海辺には、どこから集まってくるのか寄り添うカップル達が増えていた。
 ここは、まるでそれを狙ったかのように、やたらベンチや木陰が多いのである。
 その中で一人、木陰に隠れるような目立たない場所で、海の絵を描く青年の姿があった。灰色の髪の体格のいい若者である。
 彼は静かにスケッチブックにデッサンをとっている。そのすぐ近くに、やはり灰色の髪の幼い少女が落ち着かない様子で辺りを見回していた。
 どうみても親子にしか見えない二人だが、実は他人である。青年の方が、ロボロフスキー・公星(w3d283)、娘の方が北原・亜衣(w3c968)という。
「‥‥大の大人が正体不明の生き物に可愛いのなんの言って大騒ぎして、バッカみたい‥‥」
「こけおろすわね‥‥」
 ロボロフスキーは小さく苦笑する。彼は立派な男性だが、姉の陰謀によって女性言葉を日本語として覚えてしまった。
 亜衣は辺りを見回しながら呟く。見かけは可愛らしい少女だが、大人びたさめた視線でものをみる癖がついてしまっているらしい。
「ちょっと行ってくるねっ」
 ロボロフスキーに手を振り別れると、亜衣は辺りのカップル達に近づいた。
 海を眺めるベンチで、ぴったりと寄り添い、愛を語るカップルを見つけると、後ろから大きな声で呼びかける。
「ねえねえ、お兄さんたちなにやってるの!?」
 振り向く二人。なぜか女性のブラウスのボタンがいくつか外れている。
「なにやってるの!?」
 瞳を輝かせてたずねる亜衣に、二人は無言で立ち去っていった。
(「ふふ。うまくいった」)
 さて、次は。と近くのベンチにまだ残っているカップルに、わっ、と叫ぶ。振り返ったのは金髪の少女と黒髪の青年。
「な、何っ!?」
「‥‥どうしたっ!?」
「あー」
 亜衣は小さく苦笑した。
 カップルを装ってあたりを警戒していたリスティとジザであった。
「いや、あんまりお似合いのものだから、つい間違えちゃった‥‥」
「もう」
 リスティは苦笑して、亜衣の頭をくしゃりとする。互いに表現の芸術を愛する二人、話もよくあっていたのだろう。
 その時。
 遠くで、闇をつんざくような女性の悲鳴があがった。
 
「!!」
 リスティ、ジザ、それに亜衣とロボロフスキーは一斉に駆け出した。一直線に続く海浜公園の先のほうだということしかわからなかったが、方向は間違いないはずだ。
 携帯が鳴り響く。
「はい、リスティよ。‥‥キーネさんね!」
走り続けながら、リスティは電話の向こうのキーネの声を聞く。
 どうやら敵は、キーネと村雲の近く現れたらしい。
「すぐ行くから!」
 しっかりと頷く彼女に、他の三人も強く頷いた。

●戦闘
 カップルを装う村雲と逢魔の様子を、キーネは少し離れたところで見守っていた。海辺の近くに陣取った二人に危険が迫るようなことがないか注意していたのだ。
 もちろん二人だけではなく、広範囲が見渡せるようになるべく高い場所を選んだ。
 静かな静かなお台場の夜。
 高速からの車のヘッドライトの列、輝くばかりのレインボーブリッジ。ライトアップされたお台場テレビの外観に、イルミネーション瞬くパレットタウンの観覧車。
 どれもこれも美しく、目を奪われてしまう。
 けれど目にするものは美しく、けれど、静寂の中にそれらはあり、ロマンティックな雰囲気になるのもよくわかる。
 ぱしゃん。
 水の音が囁きとして響く。入り組んだ湾の中にはやさしい波がたっている。
 ぱしゃ、ぱしゃぱしゃ。
 キーネはそこではっと気づいた。逢魔が指差す。
 白い大きな体が砂浜からあがってくるのが見えたのだ。
 その先にはみしらぬカップル達がいる。咄嗟にキーネは駆け出し、走りながら村雲の携帯を慣らした。
 村雲はすぐに動いた。逢魔を残し、マーライオンの方向へと向かう。
 とはいえ、すぐに攻撃を仕掛けるつもりはなかった。
 砂浜の側にある木陰に身を寄せ、様子を伺う。
 しかし。
 マーライオンの方が動きが素早かった。陸に上がり、近くの砂浜に腰掛けたカップルを見つけるや否や、いきなり飛び跳ねて襲いかかったのだ。 
 叫び声を出し驚くカップル。
「何をっ!!」
 村雲は狼風旋<ハウンドファスト>を発動させた。風を切るような動きで、マーライオンに近づくと、その体をつかむと反対側に投げ飛ばす。
「逃げてっ!!」
 カップルに叫ぶ。あまりものことに腰もたたないようなカップル達の前に、別な黒服の少年が現れて、立ち上がらせるのを手伝った。
「こっちだからっ」
「お前は‥‥」
「遅くなっちゃってゴメン。先生に捕まってて‥‥」
 可愛くウインクを決めて、寿・樹人はカップル達を連れて避難を誘導した。
 投げ飛ばされたマーライオンの口元からは、グルルルルルという、その外見からは信じられないような低いうなり声がもれていた。
 黒くて丸い可愛い瞳は、赤くらんらんと輝き、村雲を見据えている。
「‥‥」
 刹那、マーライオンの鋭い牙が生えそろう口元が大きく開き、水の柱が村雲を目指して吐き出された。
 咄嗟に避ける村雲。その背後からまばゆい光が発せられた。
「蛇縛呪<スネークゲイズ>!!」
『グガァッ』
 動きを封じられ、咆哮をあげるマーライオン。
 そこに、キーネから連絡を受けた仲間達も駆けつけてきた。
「これがマーライオン‥‥」
 シザが呟く。刹那、呪縛から逃れたマーライオンは再び、近くにいた村雲にめがけて、水の柱を吐き出した。
「うわ!っ」
 不意をつかれ、村雲は水の衝撃にはじかれ、砂浜に倒れた。キーネが駆け寄る。
 水の柱を吐き出しながら、砂浜の向こうの四人の魔皇にもマーライオンは気がつき、攻撃を向けようとする。
「させない! 凍浸弾<コールドショット>!!」
 手のひらを向け、亜衣の手のひらから冷たい礫がマーライオンに放たれた。
 急所に当たったのか、マーライオンは地面に崩れた。ジザがさらに蛇縛呪<スネークゲイズ>を叫び、その動きを再び封じる。
「今ねっ!」
 リスティが空に飛ぶ。
「即効で解決してあげるわよ! 必殺コンボぉぉ!! Tyranny plunderer!!」
 狼風旋<ハウンドファスト>で一気に近づき、燕貫閃<スワローピアーズ>で急所を狙い、その威力を増した旋風弾<スケイルショット>の弾丸を至近距離から放つ。
 たまらずマーライオンははじき飛ばされ、砂浜にあお向けに倒れた。
 同時にロボロフスキーの魔力弾<マジックミサイル>がその体に突き刺さっていく。
 ‥‥マーライオンは二度とその体を動かすことはなかった。

●さて、どうする?
「これはこれで愛されていた生き物なのよねぇ‥‥」
 いまや骸となったマーライオンの体をなで、ロボロフスキーは小さく微笑んだ。
「お台場のだいちゃんだか、まーちゃんだかがいなくなったら、悲しむ子供もいるでしょうに」
「‥‥しかし都会の真ん中にサーヴァントが現れたのです‥‥。これも神帝軍の手の内かもしれない‥‥」
 村雲の言葉に皆小さく頷く。
「で、この死体どうする?」
 亜衣が皆を見回した。
「食べようかっ?」
 明るくリスティが笑う。「はっ!?」と視線を集める一行。
「いや、以外に美味しいかも。ね?」
「‥‥」
 その意見は組み入れられず、その死体はお台場の海に沈めることにした。
 
 やがて襲われたカップル達を送り届けて、樹人が戻ってきた。
「今夜見たことは人に言わないでって伝えてきたよ‥‥。でもすごく感謝してた。ありがとうと伝えてくださいって」
「‥‥そうですか」
 村雲は微笑んで頷いた。
 もしサーバントが神帝軍の手下だったりすれば、魔皇達がサーバントを殺したと大騒ぎするかもしれない。
 彼らが黙っていてくれればその心配はないからだ。
「帰りましょうか」
 リスティが明るく微笑む。
「そうだね。眠くなっちゃった」
 亜衣が微笑み、村雲とジザも続いた。キーネも振り向こうとして、残ったロボロフスキーに気がつく。
「私は、もうちょっとここに残るわ。まだデッサンが終わってないし‥‥」
 ロボロフスキーは目を細めた。
 お台場の海と夜景。そして今はもういない白い愛嬌ある生き物。せめてスケッチブックの中に残しておこう……。
 皆が去った後もひとり彼は無心でスケッチを続けるのだった。
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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