どらごにっくないと

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【Kou番外】あなたのお店に行かせてほしい

  • 2008-06-30T15:25:52
  • 龍河流MS
【オープニング】
 今は本当は湘南テンプルムのマザーと繋がっていて、そちらのファンタズマと言うのが正確な恵は、パートナーのグレゴール須藤豊の主張に従っていた。横浜テンプルムが墜ちようが、彼女が自称するのは『横浜テンプルム所属のファンタズマ』だ。
「だって、豊が横浜テンプルムを墜とした奴らを警察に引き渡すまでは、絶対に湘南の人にならないって言うから。マタイ様も、『人の世の平和のために尽くしなさい』って口癖だったの」
「マタイ様って言うと、出張中に襲撃受けた偉い人だっけ。随分と穏やかな人だったのね」
「うん。よその県でグレゴールがなにかすると、魔皇が暴れるでしょ。だから同じことでみんなに危険があるくらいなら、少しずつ仕事しなさいって。グレゴールに音楽とか得意な人が多いのも、マタイ様の考えだったのよ」
 神奈川県全域のテンプルムを支配下に置いていたプリンシュパリティの死去は、グレゴール全体に当然ながら良くない影響を与えていた。それでも彼らが過激な行動を控えたのは、マタイの日頃の言動が一般市民の平穏を重んじるものだったからだ。ここで自分達が、マタイの理想を裏切ってどうするというわけである。
 しかしながら、殲騎相手に縦横無尽の戦いぶりを見せ、まったく容赦なく魔皇、逢魔を斬り捨てたマタイの姿を、恵はもちろん話し相手の安村幸恵も見てはいない。恵が知るのは『思いやり深く、穏やかなマタイ』だし、幸恵はグレゴールとファンタズマが口を揃える『マタイ様』しか分からなかった。
 後は全般に一途な性質のファンタズマらしく何事も疑わない恵と、ごくごく普通に『穏やかなだけで幹部は務まらないだろ』程度の思案はする幸恵の差があるだけだ。
 そうして二人は、コタツに向かい合わせで折り紙を折っていた。三月末からのお花見シーズンを睨んだ、レストランバーKouの販売品目『紙コップ立て』である。紙コップの底部がちょうどはまる、浅い箱。各色取り揃えると、自分のコップがどれかも迷わずに済む優れものだった。五つで百円、原価は折り紙五枚分。挙げ句に製作人件費はファンタズマや逢魔のおかげで超低額の、ぼろ儲けアイテム‥‥の予定。
 ちなみに場所は須藤の借家。曜日は日曜で、須藤当人は洗車の真っ最中だった。幸恵は夕飯作りを兼ねて、遊びに来ている。
 話題が途切れて、しばらくは黙っていた恵だが、紙コップ立てを三つ折ったところで顔を上げた。
「ホワイトデーは、豊とデートする?」
 折り紙を続けながら、幸恵は答えた。
「誘われたらねー。お返し不要といった手前、ホワイトデーにかこつけるわけにはいかないわよ」
 話題に上げられた須藤は、洗車を終えて、予定通りに出掛けていったところだった。

 オリンピックのサッカー予選開始前壮行試合の結果にご機嫌な状態で、逢魔ユキトは須藤の家を訪ねていた。本日は鍋奉行幸恵で、海鮮鍋を食す集まりがあるのだ。他のメンバーは、須藤が迎えに行ったので、もう集まっている。
 参加者はグレゴールが四名、ファンタズマが五体、魔皇と逢魔が一組だ。ユキトの実家の親兄弟は、幸恵の家庭事情を聞いてひっくり返ったが、彼がこういう集まりに参加していると知っても呆然とするだろう。
 しかし、ユキトはすっかり慣れてしまって、安村幸人とサッカー談義に花を咲かせている。早川航太郎が全然サッカーのオリンピック代表を知らないので、二人で懇切丁寧かつマニアックに説明までしてあげているところだ。
「私だって、巷で話題の大型高校生くらいは知っているのですが」
「サッカーは一人でやるもんじゃないんだってば」
「そうです。せめて選手の名前と顔が一致しなきゃ」
 とうとうユキトが部屋の片隅に詰まれた新聞の山から、裏が白い広告を探し出してきた。それにヤスが選手の名前をすらすらと書く。そうしてユキトは、各自の出身チームや守備位置を語り始めた。
 そもそもサッカーに興味のない早川には、結構な苦行である。しかしファンタズマ達は隣の和室で折り紙をしているし、幸恵と須藤は鍋の準備で台所だ。もう一人のグレゴール犬塚瑠璃亜も、珍しくヤスから離れて台所に行っていた。
「早川さん、聞いてくれてますか?」
 もちろんユキトは、早川が困惑していることなど気付かない。

 海鮮鍋のはずなのに、なぜかウインナーが入っていることを、須藤はちょっと不審に思った。でもたこさんウインナーだから、幸恵のジョークだろうと思って自分の取り皿に持ってくる。次の瞬間、コタツの中で目一杯足を蹴られて、彼は箸を取り落とした。
「ルリア、いきなりなにするんだよ。暴力は駄目だって、いつも言ってるだろ」
 でもルリアは聞き入れない。幸恵の膝に座っていたのが、身を乗り出して、須藤の手元からたこさんウインナーを奪っていこうとする。途中で幸恵に『行儀が悪い』と、膝に無理やり座らせられたが。
「欲しかったら、きちんと言え。きちんと。俺とだって、週に三日は会ってるのに」
 人見知りや寡黙の域は通り越して会話をしないルリアは、面白くないことがあると意思表示に暴力を振るう。この場の誰もがその辺の事情は心得ているが、かといってしつけに甘くもなかった。ヤスなど箸を止めて、更に何かあったら怒るつもり満々である。
 まあ、食事中に説教されても嫌なので、須藤はもう一回『暴力は振るわない』と言い聞かせてから、たこさんウインナーを譲ることにした。箸でつまんで差し出したら、今度は素直に口を開くのが面白い。鳥の雛みたいと思いながら、そのまま食べさせてやる。
 だが、続けて幸恵が春菊を口を放り込もうとしたら、そっぽを向いて抵抗した。
「そうしていると、親子みたいですねぇ。須藤君達が親だと、だいぶ若いですけれど。ルリアさん、須藤君の子供になって、大きくなったら安村君のお嫁さんになるのはどうです?」
「‥‥」
 真面目に考え込んでいるルリアを見て、須藤はやめてくれと呟いた。ルリアの両親の四十九日も済まない内に、不謹慎な台詞だと思っての言葉だったが‥‥やがて、ルリアがにかっと笑ったので目を疑う。実の親にこんなにも執着がなくなったんだと知って、彼はかなりショックだった。
 しかしながら、早川と安村姉弟は平然としていて、一緒に驚いてくれたのはユキトだけだ。
「でも、あたしは好き嫌いする子は困るなー。ほれ、春菊」
「なんだよ、姉貴。あんなに騒いでて、マジで須藤さんとまとまる気か。前の彼女さんはどうした」
「お黙り、若紫計画」
 不毛な姉弟の会話の中、ルリアは嫌そうな顔で春菊を口に入れていた。一口食べて、須藤と目が合ったら、もう一口食べる。
 これにどう反応したものかと思った須藤は、突然後ろから恵に押されて、また箸を取り落とした。
「豊、ホワイトデーはデートするの? 結婚もするの?」
 和室から揃って転がり出てきたファンタズマ達にまで注目されて、須藤は今言うつもりではなかった言葉を言う羽目になった。

 ホワイトデーにはこだわらず、須藤が姉とデートすることになって、ヤスは非常に気になることがあった。幸恵は『じゃあ、うちのお客の店でも巡ってみよう』と言ったのだが‥‥
「あの店のお客って、やっぱり飲むところの人が多いよな?」
「そればっかりじゃなくて喫茶店とか、珍しいところでは花屋さんとかもいるけど」
 鍋の後片付けを買って出た『ゆきとズ』は、同じ心配を抱えている。幸恵は底抜けに酒飲みだから、デートでも容赦なく飲みかねない。そんな会計は、たとえ割り勘でも須藤が可哀想過ぎるではないか。
 酒を前にした姉の理性には、まったく信頼を置いていないヤスだった。かといって、一緒に行くほどおろかでもないし、尾行なんて論外。そもそもホワイトデーは、ルリアにチョコレートを貰って大喜びした父親が、皆で外食しようと決めている日でもある。
「姉貴に、飲みすぎるなって言わなきゃな」
「気を付けてもらわないとねー」
 ヤスはユキトの『気を付ける』が幸恵の飲酒のことだと疑わなかった。まさか姉が魔皇で、店の客もほとんど全部がその仲間、当然その紹介や繋がりの店も魔皇が経営していることが多いなんてことは、思いもつかないからだ。

 レストランバーKouの店主安村幸恵は、グレゴールの須藤豊と一日デートするにあたり、どんな店を巡ろうかと考えていた。
「この機会に、よその様子を見て回って、今後の経営の参考にしたいわよねー。えーと、寄ってねって誘われたお店のリストはどこに置いたんだっけー」
 そのリストが見付かったとして、グレゴールを連れてこられて喜ぶ店は多くないだろうが‥‥幸恵は全然気にしないようだ。

 三月上旬にデートを計画している幸恵を、迎えてくれるお店はどれほどあるだろうか。


【本文】
 レストランバーKou店主の安村幸恵(z077)は、デートの日、店を短縮営業にした。
「これも付き合いよ、付き合い」
「確かに『よその店に行くなら連れてけ』って言ったのは俺だけどさぁ、なんで六軒?」
 デートの相手のグレゴール須藤豊も呆れ顔だ。でも、相手が悪い。
「来てねってお店が、それだけあるんだしぃ。いーじゃん、たまには」
 そういうわけで、二日に渡る『よそのお店の偵察しようデート』は始まった。

●花喫茶『せんか』
 一口に横浜市と言っても、結構広い。そして市内全域で海が見えるわけでもなかった。
 その海が見えない市内北部、緑区の某所に鷲羽・セイントビル(g208)の勤める『せんか』はあった。花喫茶と銘打つのは、花屋と喫茶店が隣接してあるからだ。花屋は色とりどりの植物で埋まり、喫茶店は柔らかい色調の白を基本にした洋風の建物だった。
「うちの店より、でかいわね」
 幸恵が唇を尖らせたが、誘ってくれた逢魔計都が店のドアから覗いたので手を振っている。ようやく小学校中学年といった彼女が、いきなり店のエプロンを着けて出てきたから、須藤は面食らっていたが。
「お兄様は花屋にいますわ。どうしましょう。お茶の前に、お花をごらんになります?」
 しかも小学生らしからぬ言葉遣いで話しかけられて、須藤は硬直してしまった。幸恵は慣れたもので、『お茶』と宣言して喫茶店に入ってしまう。置き去りにされかけた計都と須藤が慌てて追い掛ける。
 店内では、勝手に窓際のいい席を取った幸恵のために、渋い顔の鷲羽がメニューを取ってやっていた。花屋から、計都の声を聞いて戻ってきたのだ。店長は別にいるが、彼は幸恵が手招くから、仕方なく接客に出ている。
「あたし、苺のパフェと紅茶。何にする?」
「コーヒー。あと、このクッキーのセットを持ち帰りでお願いします」
 飲物メニューだけでも結構な量があるのに、二人はそれをまったく吟味しなかった。お勧めのリーフレットだけを覗いている。それだって他にもケーキや軽食、季節のスイーツが満載だが、一番上と二番目を選択だ。この注文に、鷲羽が非常に無愛想な確認を入れた。
「紅茶葉とコーヒー豆の銘柄は? クッキーは普通の包装でいいのか?」
 接客業とは思い難い声色と口調に、須藤だけは少々驚いている。でも計都が飛んできて、あれこれと置いてあるコーヒー豆の銘柄を説明してくれるので、すぐに表情を和ませた。
 でも、鷲羽を『お兄様』と呼んでいるのには、やはり不可思議なものを見たと言いたそうな顔になる。計都が首を傾げると、豆の銘柄だけを口にした。
 そうしてしばらくは、なごやかなお茶の時間だったのだが‥‥
「鷲羽君、それは君のキャラじゃないわぁ」
「柄じゃないのは、分かってる」
 計都が花屋の企画だと持ってきたリーフレットには、『ホワイトデー、カップル限定サービス』と書かれていた。白いリースやアレンジメントを男性が女性に贈る場合のみ半額というものだ。店のお勧めは白薔薇にソフトミントをあしらったものだが、お客が好みの花を選んで作ってもらうことも出来た。
 ちなみに作ってくれるのは、無愛想で仏頂面で、声が平坦な鷲羽である。で、幸恵が笑いころげていた。
 しかし店内のテーブルに飾られたアレンジメントも彼の作品だと聞いて、須藤は感心している。上品にしつらえられた店内も気に入った様子で、計都から店の住所などが書かれたカードを貰って、財布にしまっていた。
 やがて二人が帰った後、鷲羽は住所のメモとともに‥‥ファンタズマ宛のアレンジメントの注文を受けさせられていた。
 これには、随分と須藤に気に入られて、最後に頭まで撫でられた計都も困惑しているが‥‥鷲羽も計都も相手がお客である以上、差別は出来なかった。
 幸恵は『桜アイスの頃にまた来る』と言ったが、出来れば一人で来てほしいと『せんか』の面々は思ったことだろう。

●大衆食堂『こめこめ』
 品数の多さと各国料理の揃い方、料理のボリュームと味、そうして値段とあらゆる面において満足保証付きの食堂『こめこめ』で、志羽翔流(a046)は苛々していた。昼に来るはずのお客が、一向に到着しやがらねぇのだ。
 わざわざ席も空けてあるのに、なんとも失礼な奴らだと思っていた矢先。
「こんにちわー、志羽くんいますぅ?」
 脳天気な声が、店の扉を開ける音と共に響いて‥‥次の瞬間、扉が大層な音と共に閉まった。ようやく来た幸恵が、開けてすぐ、閉めたのだ。しかも当人達はまだ店の外だった。
「寒いんだから、彼氏も一緒に早く入れば」
 なんだとは思いつつ、愛想よく幸恵と須藤を迎えた志羽だが‥‥迎えられたほうは、両目が糸のようになっている。何かに相当驚いたらしい。
 何がそんなにびっくりするんだと店内を振り返ったが、志羽にはいつもの店にしか見えなかった。店員が普通に接客に努めている。
 そう。いつも通りにゴスロリや和風、様々なコスプレで、料理を運んだりしていた。
「コスプレ喫茶だとは聞いてなかったぞ」
「あたしだって食堂って聞いたわよ。学生さんに優しい食堂って、こういう意味?」
 志羽を無視して会話している二人に、彼もようやく合点がいった。『こめこめ』は店員がその日の気分でランダムにコスプレしているのも人気の一因なのだ。それを幸恵には、伝え忘れていたらしい。
「別に取って食いやしねぇから、ほら、入れ」
 年長者に無礼ではあるが、外が寒いのは確かだったので、志羽は二人を中に引き摺り込んだ。しばらくキョロキョロしていた幸恵も、メニューと運ばれている料理を見て、食堂だとは納得したらしい。コスプレ喫茶に鯖の味噌煮定食はないだろう。
「うーん、店員の誕生会しちゃうって聞いて、面白いとは思ったけど、これほどとは」
「悪くないだろ? 俺は常連の誕生日も祝えって思うけどな」
 須藤が熱心にメニューを吟味している間に、志羽と幸恵はけらけらと笑っている。それからようやく志羽も店員としての勤めを思い出して、注文表を取り出した。
「さて。ご注文はなんでしょう?」
 おどけた志羽は、幸恵にデコピンを喰らった。けれども須藤はそれにも気付かず、なにやら悩んでいる。
「ウーロン茶にオムライスで、デザートにあんみつって、バランス悪いよなぁ」
 また目が糸状になってしまった幸恵の脇から身を乗り出して、志羽は嬉々として『そんなことはない』と言い出した。彼は『和洋中全部楽しんじゃってくださいセット』というものを考えていて、須藤の選択はそれにバッチリはまっていたのだ。
「食べたい物を好きに選べるって大事でしょ」
 一応口調は接客用だが、幸恵を押し退けた時点で彼女に殴られる理由は完璧。挙げ句に。
「なんで飲物が中華で、食事が洋食でデザートか和風なの。それぞれ三種から選べなきゃ」
 こう力説されて、注文が取れたのは十五分ばかり経ってからだった。
 なお、志羽が『和洋中(中略)セット』の立案協力に感謝して見せてあげようとした宴会芸の数々は、最初が水芸だったので『この寒いのに』とすげなく断られる。
 それでも。
「和洋中(中略)セットは悪くなさそうだぜ」
 須藤から好評を得て、志羽はけっこうご機嫌だった。そのうち『宴会芸付き和洋中(中略)セット』がメニューに並ぶ日が来るかも知れない。

●洋菓子店『シュバルツバルト』
 腹ごなしに散歩などして、辿り着いた三軒目の洋菓子店『シュバルツバルト』は御堂力(a038)がオーナーパティシェの、喫茶スペースも併設したやはりお洒落な感じの店だった。
「また‥‥? 最近の流行りか、これは」
 けれども須藤は複雑な表情だ。理由はこちらの店のウェイトレスの制服にある。
「かわいーじゃん、メイドさん。嫌い?」
「まあ可愛いが、撮影したいとは思わないぞ」
 よそのテーブルをこそっと指して、須藤がぼやく。確かにそちらのテーブルでは、お兄さんがバックにカメラかビデオを仕込んでいるようだが‥‥
「当店は無断撮影禁止となっておりますの。カメラ付き携帯もご遠慮くださいませ」
 御堂の逢魔静夜が見本のお茶の葉を乗せた盆を持ってきながら、幸恵と須藤に微笑みかける。その背後では仮面プロレスラーらしき人物が、不心得な客に教育的指導を喰らわせていた。
「コックコート着て、なにをしてんだか」
 幸恵は呆れているが、同性の不幸に興味のない須藤は、静夜の茶葉の説明に聞き入っている。お茶の葉を見ても、彼はさっぱり分からないが、見本を示して説明してくれるところが気に入ったらしい。
 なお、こちらはコーヒーもあるが、日本茶や中国茶をあれこれと揃えてあるので、見本も一つまみずつながら結構な量だ。特に中国茶は大きく分けても七種類ある。紅、緑、白、青、黄、黒の他に花茶で七つ。ウーロン茶は青茶、緑茶も日本とは製法が違い、中国紅茶はストレートで飲むのが美味しい。花茶は様々な花の香りを移して作り、ジャスミンティーがお馴染みだ。
 もちろん洋菓子店なので、ケーキの類が一番のお勧めである。幸恵がメニューを眺めたところでは、フランス、ドイツ、イタリアとヨーロッパも有名どころをクリアして、更に独自のアレンジを加えたスイーツが多いようだ。彼女はラズベリーのパイを選んでいる。
「ゼリートライフルは‥‥夏期限定かぁ」
「この時期はベリー系のソースをかけたレアチーズケーキが人気ですわ」
 非常に丁寧な物腰の静夜に勧められたからではなかろうが、須藤はこちらを選択。飲物は二人ともコーヒーだった。
 この後、『コックコートで暴れたら、衛生上問題があるでしょう』と静夜が御堂にハリセンを喰らわせるのだが、残念ながら裏方でのこと。お客達の目には触れなかった。
 喫茶スペースは不心得ものが追い出されたおかげで平和なままに時間が過ぎた。洋菓子店のショーケースにしばらく幸恵がへばりついていたが、日持ちのするパイやチョコレート菓子をお買い上げして帰っていく。
 須藤はここでも、店の住所と連絡先を確認していた。まあ、気に入ったのでまたと言われて、静夜も御堂も嫌な顔はしなかった。
 心中、どう思っていたかは別だけれども。

●中華『郭酒家』
 朝から夕方までで三軒巡り、結構色々食べたはずの幸恵だが、元気一杯だった。付き合う須藤も、この程度では疲れた様子もない。
 そんな二人は、待ち合わせの場所に向かっていた。推薦者に店までの案内を頼んだのだ。やってきたのは大曽根こまき(b217)と逢魔ビフレストだった‥‥が、ビフレストを見て、須藤が『またか』と呟いた。
「ビフちゃんがどうかした?」
「いやぁ。今度はナースで疲れたんでしょ」
 非常に簡素にそれぞれ紹介されたが、こまきは二十歳だからと幸恵に念押しされた。正直当人は嬉しくない。しかし身長は、三つ下のビフレストとも三十センチばかり違う。これはこまきのコンプレックスだ。
 ついでに身長はそれほどでもないがスタイルはよろしい幸恵と、男性平均身長をちょっと上回る須藤に囲まれると、まるでビルの谷間に落ちたような気分になった。
 まあ、本日は親友の店で、須藤の財布で好きなもの食べ放題なのでよしとする。須藤がビフレストのナースキャップ風帽子に疲れていようと、彼女には関係ない。
 さて、こまきお勧めの『郭酒家』は本格中華の店である。どのくらい本格かと言えば。
「ボクのお勧めは炒飯と青椒牛肉絲かな。炒飯はご飯粒に卵がコーティングしてあって、パラパラなんだよ」
「それ、聞いたことあるけど、食べたことないわね。じゃ、それとビフちゃんお勧めのショーロンポー。あ、好きなもの頼んでね」
 幸恵にいかにこの店の炒飯が美味しいか、得々と語っていたこまきだが、メニューを前にしばし考えてしまった。点心も美味しいものがいっぱいだが、初対面の他人様、しかもグレゴールに奢ってもらうのはどうかと思わなくもない。グレゴールだからたかってしまえと思うほど、彼女もすれてはいなかった。
「お酒も頼んでいいよ。今日はここの勘定持つ約束で、夕方までの分奢ってもらったから」
 でも須藤がにこやかに勧めてくれたので、こまきは素直に従うことにした。二十歳とはいえ色気より食い気が勝る彼女は、魅惑の点心類を気の向くままに注文している。
 その隣では、ビフレストが幸恵にこんなことを勧めていた。
「有料ですけれど、チャイナ服を多数揃えてありますし、男性用もございますわよ」
 なんと『郭酒家』では、チャイナドレスに着替えての記念撮影をサービスとして行なっていたのだ。これは結構好評で、利用していくカップルは決して少なくない。でも。
「駄目だわ、あたし。だってチャイナドレスって、胸に合わせると腰がすごく余るんだもん」
「オーダメイドでないと、そうですわよね」
 幸恵の発言にビフレストがうんうんと頷いている。どちらも確かに、非常に女性らしい体型ではあった。
 賢明にもコメントを避けた須藤は、菜單(メニュー)をこまきに差し出している。なんでも頼みなさいと、太っ腹な態度を示してくれたようだ。
 そうして。
「こまき様、いくらなんでもそんなに」
 ビフレストの制止を振り切って、こまきは随分とたくさん食べたはずだ。けれどもいいのか悪いのか、彼女は食べてもその分が体型に残らない体質をしている。
「なんか、あたし失敗した?」
「した。酒飲まないで反省しろ」
 中華料理店『郭酒家』、お腹いっぱいになってもまだ食べてしまいたい、そんな美味しいお店でのことだった。

●喫茶『愛の蜃気楼』
 『よその店(中略)デート』二日目は、温泉から始まっていた。喫茶店の触れ込みで連れてこられた須藤は、もう何が起きても不思議はない気分らしい。久遠章(a221)推薦のこの『愛の蜃気楼』は、喫茶と温泉が一度に楽しめる珍しいところなのだ。
「ええと、エーゲ海風? 店の中がコートダジュールで、こっちがエーゲ海か」
 どちらの地名も、世界地図のどの辺に位置するかがすぐにも思い出せない須藤は、深く悩まなかった。ちなみにいずれも地中海周辺で、ヨーロッパ、アジア、アフリカに囲まれた由緒も歴史もある地域がイメージだ。
 しかし、である。
「しばらく海は嫌いだ」
 そんなことを呟いた彼は、店内の陽射し溢れる街角を思わせるような壁を眺めつつ、のんびりとサンドイッチを摘んでいる。
 そうしてこの間、エーゲ海風の屋上露天風呂はどうなっていたかといえば‥‥
「ほかに店の裏に二カ所だって。時間があったら、入るんだけどね」
「いいよ。豊は待っててくれるよ」
「上と左右が開けてないと、あーたの羽根が当たりそうで恐いのよ」
 魔皇の幸恵とファンタズマの恵が占拠して、長湯を楽しんでいた。たまに鳥の水浴びみたいな音が入るのはご愛嬌であろうか。
 まあ、女性同士?の温泉タイムはご機嫌のうちに進んでいるが、喫茶はそうでもなかった。正午過ぎの時間を見計らって、久遠が追加オーダーの有無を尋ねている。
「最近の新メニューは薔薇のジャムや紅茶、あとはアスパラとツナのパスタとか」
 後は噂で『この店に通うとカップルになれる』と苦笑混じりに口にした久遠に、須藤もやはり苦笑が返す。そんなに簡単になれるんなら、毎日だって通うんだけどとは、デート中らしからぬ言葉だった。
 さすがに客のプライバシーに踏み込むのは接客業として問題あるので、久遠は上手にその話題から離れていった。そういう噂以外にも、この店のウリは色々とあることだし。
 でも一番は、やっぱり『温泉が楽しめる喫茶店』というところだ。しかもお手軽に地中海風のリゾート気分が満喫できる。この際グレゴールだって、お客として遇することに文句はなかった。
 本来なら、こういうところも売り込みたいが‥‥さすがに後が危険なので無理だろう。それに店長からも、地中海がテーマの内装とメニューとあれこれを勧めてこいと、久遠は厳命を受けていた。
 ただし。
「いいお湯だったよぅ。ほら、つるつる」
「ほらほら、つるりん」
 温泉を満喫した女性二人組は、店側の売り込みなどまったく意に介さなかった。幸恵に至っては、新メニューと言うだけで薔薇のジャム入り紅茶を頼み、須藤のサンドイッチを我が物にしている。
「アスパラのパスタ追加ね。それから」
「あ、あたしも半分食べる」
「分かってる。あと、オレンジジュースを」
 なんでも半分寄越せと言う幸恵の姿を眺めて、久遠はフォークやストローを二本ずつ準備した。
 店員の気が利くのも、『愛の蜃気楼』のウリの一つである。

●バー『花鳥風月』
 三月の陽が落ちた頃、バー『花鳥風月』を幸恵に推薦した三名は、たまたま揃って時計を見上げていた。バーテンダーを勤めるラルラドール・レッドリバー(a093)、調理担当の山本雪夜(c568)、常連客の仇野幽(a284)だ。
 彼らのいる『花鳥風月』は非常にシックな壁紙などを使った内装で、ビリヤード台も据え付けてある。まあ、お洒落な雰囲気を楽しみたかったらどうぞと胸を張って言える、なかなかに素敵な店だ。
 ビリヤード台の端に『台の無駄遣いはやめましょう』と書かれた小さなボードが立っているのは、見ない振りをすれば。
 更に店員も非常に見た目がよろしい。ラッシュはモデルも出来そうな顔と身長、スタイルだし、雪夜も日頃のボーイッシュな服装を一新して大人びた装いで華を添えている。
「こんばんわぁ。あ、幽〜、来たわよ〜」
「遅いじゃない。三人に増えてるし」
 魔皇とグレゴールの二人連れを迎えようなんて気が満々だった店に、幸恵と須藤が到着したのは予定時刻をちょっと過ぎてからだ。もちろん三人目はファンタズマの恵である。
「車で来た? 須藤さん、くつろぎなさいよ」
 まるで自分の店のように仕切る幽の横に幸恵が、それから須藤、恵と座って、カウンターは突然賑やかになった。特に恵が上着を脱いで、背中の羽根を出したから大変だ。
 でも、幽は恵の胸元に目を留める。幸恵は、幽の手を眺めていた。
「幸恵、あのネックレス重ね付けって」
「ペアで貰ったけど、あたしクリスチャンじゃないし。ところで幽、その指輪どうしたの」
 指輪の出所やいきさつを多少は知っているラッシュと雪夜は、揃ってあらぬほうを眺めてみた。だが幽はけろりとしたもので、『貰ったのよ、お洒落でしょ』と胸を反らしている。幸恵も『恵ちゃんが着けるとクロスネックレスは似合うでしょ』とご満悦だ。
 色々心配な店員二人と違い、須藤はマイペースにフードメニューを眺めていた。何か注文する気になったのか顔を上げたが、雪夜と目が合って、しばらく固まっていた。
 それから、おもむろにラッシュに視線を移し、お勧めを尋ねてくる。最近雪夜とステディな間柄になったラッシュとしたら、今の須藤の反応は気にかかるところだ。
 これは、どこから見ていたのか、幸恵が説明してくれる。いや、親切にこうだとラッシュに言ってくれたわけではないが。
「女の子にみだりに歳を訊いたら駄目よ?」
「一瞬、高校生かと思った」
 大人びた化粧をしていても、実は中学生の雪夜はこれに心臓ばくばくだ。魔皇や逢魔だけを相手にしていれば、年齢などはたいてい大目に見てもらえるものだが。
 当然、その話題に突っ込まれたくないラッシュは、チーズの品揃えや豊富な軽食について、丁寧に説明をし始めた。これらは雪夜の担当だが、彼女は生地から手作りのピッツァなども上手だ。また店には窯も作りつけられていて、本格的な味を楽しむことも出来た。
 なんてことを脇から聞いて、幸恵はピッツァとサラダを頼んでいる。と、その時。
「あ、コレは新しく始まったサービスよ。たんとお呑み」
 にぱっと笑った幽が、どこに隠していたのかやかんを取り出した。イメージとしてはラグビー部の女子マネージャーが持って走り、倒れた部員に水を掛けるときに使うアレ。中からはちゃぷちゃぷいう音と、ほんのり甘い匂いが漂ってくる。
「あ、日本酒。う〜ん、銘柄が分からない」
「そんだけ酒の匂いさせる幸恵に、分かるはずないでしょ。どこで飲んだのよ」
「来る途中の造り酒屋で利き酒だってさ」
 一緒に飲んでやってと須藤に言われると、当然幽は面白くない。この二人、一応幸恵を挟んでの恋敵だ。幽と幸恵の間に飲み友達以上の関係があるとは、ラッシュと雪夜は思っていないのだが‥‥まあ、全ての責任は幸恵にあると、幽は常々豪語している。
「なによぉ、二人におごってあげようって用意したんだから、ま、呑め」
 今度はごんごんっと湯飲みが出てきた。それを目撃して、ラッシュの額に薄くしわが寄る。雪夜は自分が見たものが信じられないと言いたげに、目を擦ってみたりした。
 プラスチックの湯飲み。『花鳥風月』には非常に似つかわしくない、目茶苦茶安っぽい代物だった。しかも。
「これ、欠けてるわよ」
  ラッシュがやや神経質に前髪を掻き上げたが、気にしたのは雪夜だけだ。須藤は湯飲みを幸恵に押しやって、やかんでお酌に努めている。幸恵も欠けた湯飲みは脇に追いやって、早速飲酒に勤しんでいた。
 やっぱりあびるほど飲んじゃうのかもと、雪夜がさっきとは違う意味で心臓をばくばくさせていると‥‥更に彼女の心臓に負担をかける輩がいた。当然ラッシュのはずはない。
「彼氏はなんで飲んでくれないのよ。車だって、泊まっていけばいいことでしょ」
「幽、酒の一滴、血の一滴。下戸は用無しよ」
 なかなかとんでもない台詞を吐いて、幸恵はやかんの中身を独占する心積もりのようだ。それならそれでラッシュは須藤にノンアルコールの飲物を提供する必要があるし、雪夜はつまみを準備するのに忙しくなった。
 でも、カクテル片手の幽が何を考えているのか、それが一番恐い二人だった。『花鳥風月』で彼女が首を突っ込んだ事柄は、たいてい幽の一人勝ちで終わるからだ。正確には、彼女が周囲を弄び、いじり倒してポイする。
 ラッシュは決して失礼な輩ではないし、人の恋愛ごとを口にすると雪夜が少々辛そうな表情になるので言わない。けれどもそんな幽に、店の関係者が二人も特別な感情を寄せているのは、端から見ていてもいささか複雑だ。
 なんて、彼が物思いに沈んでいる間に、たまたま客の姿が途切れた店内を幸恵が吟味して歩き出した。勝手に四つある個室も覗いている。この店では『花/鳥/風/月』の四室の個室があり、それぞれに異なった趣向で常連客のニーズにお応えしていた。自分の店に個室のない幸恵は、各部屋の探検に忙しい。
 この間に、幽はやかんから手酌で日本酒を飲んでいた。途中、須藤を振り返って『カップル料金一万六千円ね』と言い放った。『花鳥風月』にカップル料金の設定はないが、差額は幽が支払うと言うことで相談済みだ。幽が雪夜を押し切って、ラッシュを頷かせたという話も、なくはない。
「高いなんて言わせないわよ。昔、幸恵があたしから踏んだくった百物語料金に比べたら、よっぽど良心的なんだからっ!」
「ああ、脅かすだけのつもりでふっかけたら、本当に払ったお客が一人いたって聞いた」
「お会計に冗談はいけないわよねぇ」
 薄ら寒い会話から、ラッシュと雪夜がちょっとばかり離れたからって、誰も責めないだろう。そうして二人は、個室を探索していた幸恵が戻ってきたのを見付けた。
「カラオケがあるけど、あの部屋だと音響はどう? なんか歌ってくれない」
 妙なところで商売っ気を出した幸恵が、二人をカラオケ設備のある『月』に引き摺りこんだ。勝手に選曲して、勝手に入力し、なぜかデュエットにしている。いつのまにか恵も『月』に入り込んで、歌を聞く態勢だ。
 メープルシロップに砂糖を混ぜて、アイスクリームに掛けたようなラブソング系デュエットを、恵が理解しているとはまったく思えないけれど。ついでに幸恵の選曲基準も不明の一言だ。彼女がラッシュと雪夜の仲を知っているはずはなかった。なにしろ最近、始まったばかり。
 それで二人は幸恵が急かすままに歌い始めたが‥‥その後の雰囲気は推して知るべし。特にラッシュの目許が和んでいたと、後に幸恵が幽に評する状況だった。そもそも歌も、聞いている最中から恵とジャンケンなどし始めていたことだし。
 でも、デュエットの間、カウンターに置き去りになっていた幽と須藤よりは、よほど幸せな状況だろう。須藤は幽から、散々遊ばれていたのだから。一番は、いつのまにか飲物にちょっとだけ酒が混ぜられていたこと。
「よ、弱いんだね。どうしようか」
「少なくとも運転は出来ませんよ。幸恵さん、免許は? 不携帯じゃ、駄目か」
 かなりふらふらの須藤に水を飲ませている雪夜の横でラッシュが悩んでいると‥‥幽が唇に手を当てて、わざとらしく笑う。でも目尻が下がるのは、何か企んでいるからだ。
「お泊まりすれば? 風にお布団あるでしょ。それで明日帰ればいいのよ」
 確かに個室の『風』にはこたつや布団が完備されていた。滅多に使わないが、常連が終電を逃した場合などに使用する。
 ところが、須藤は幽の腕を掴んで、こんなことを言った。
「じゃ、明日乗せてくから、ゆっくり話し合ってみよう。どうだ」
 冗談じゃないと腕を振り払いたい幽だが、さすがにグレゴールは力がある。加減しているが、それでも人化していると外せなかった。
「助けてあげなくていいんですか?」
 雪夜に尋ねられた幸恵は、溜め息たっぷりにこう答えた。
「酔うとすごく頑固になるから飲ませなかったのに。せっかくだから、明日一緒に帰る?」
「高速料金なんか、一円も出さないわよっ」
 明日帰るなら、一度店を閉めて雪夜を送ってから、戻ってこようかとラッシュは申し出たが‥‥なぜか恵が大丈夫だと言い張るので幽に鍵を預けて、翌日出直すことになった。
 無邪気な善意は始末が悪い。
 ちなみに帰り際、雪夜はホワイトデーだからと三人にマシュマロをくれた。須藤を『風』に叩き込んで寝かせた女二人は、それを肴にラッシュが帰りしなに作ってくれたカクテルなど飲み直している。
「中にチョコレートでも入ってると、洋酒に合うわよね」
 どちらかがそんなことを言いつつ、でもかぱかぱとグラスを空けた。カクテルがなければ、今度は幸恵が日本酒を持ち込みだ。やかん酒に一升は入っていた日本酒は、とっくに雫も残っていない。
「私は深ぁい愛で、あんたを見守ってるわよ」
「ま、ヒロイン取り合いシナリオね」
 『花鳥風月』に鈍いぶん殴る系の音が響いた理由は、あまりにも明らかだった。

 ところで雪夜は、ラッシュにもマシュマロをプレゼントした。歩きながらそれを口にした彼は、中から程よく溢れてきたチョコレートに目を細める。その優しい表情で肩を抱いてくれることに、雪夜は頬を染めて俯いた。
 そんな彼女の前に、ラッシュは小さな箱を差し出した。包みも何もないそれは、可愛らしいジュエリーボックスにも見える。
「今度は、本物のアクセサリーボックスを選びに行こうか」
「でも、今オルゴール貰ったし。‥‥ラッシュさんの方が、入れるものたくさんありそう」
 時々自分では不釣合いではないかと心配になるような洒落者の彼氏と歩きながら、雪夜はまた俯いてしまった。そんな彼女の耳元に、ラッシュがかがんでくる。
「ここは、雪夜だけで充分だから」
 気障な仕種で胸を示され、雪夜はあやうく転びそうだった。もちろん力強い腕が、そんなことにならないうちに支えてくれたけれど‥‥
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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