どらごにっくないと

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緋色の旋律【第1楽章】

  • 2008-06-30T15:35:56
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
「甘いお菓子は、まだのようですね」
 携帯電話の画面から目を離し、イレーネは葵に向かって頷いた。
「でも、まだ始まったばかりですし‥‥」
 とっておきのカップを丁寧に拭きながら、葵は微笑んだ。
「神帝軍の影あり」と目されたオーケストラに潜り込んだ魔皇達。
 この時刻であれば、公開リハーサル後の交流会の最中だ。彼らは無事であろうかと、外へと視線を向けた葵は、すぐさま小さく首を振った。
「心配など、必要ありませんね」
 必ずや、彼らは吉報をもたらしてくれる。
 そう信じて、葵は上品で豪奢な印象を与えるカップをソーサーの上に静かに乗せた。同じ意匠のスプーンをその隣に添える。
「皆様と甘いお菓子を頂く時のカップは、これで良いと思う? イレーネ?」

 会場となったロビーは、和やかな雰囲気に満ちていた。
 普段はステージの上、真剣な表情で楽曲に打ち込む演奏家達がファンに取り囲まれるようにして談笑している。
 指揮者である沢渡和夫の周囲には音楽評論家達が集い、古くからこの楽団を支えて来た柳瀬賢治の周りには付き合いの長い地元の名士が集まる。
「この楽団がここまで大きくなるとは思わなかった」
「融資した甲斐があると言うもの」
 一時期、運営が危ぶまれた時期、柳瀬は彼らの前に頭を下げて融資を取り付けた。あの頃と比べ、今は‥‥。
 ちらり、柳瀬は沢渡へと視線を走らせる。
「やはり、世界的に名の売れた人が来ると違うねぇ」
 誰かの呟きが、柳瀬の胸を刺し貫いた。
「本当に、美穂さんは舞台映えされますねぇ」
 ごく普通の私服でも、その存在感は他を抜きん出ている。女王の風格を漂わせながら笑った美穂は、目で幼なじみの姿を探した。
 彼女の側は安心出来る。
 こんな風に、笑顔の仮面を被った人達に取り囲まれている時は特に。
 社交的な事は嫌いではない。寧ろ好きな方だ。
 だが、こんな時は自分が何者であるのか、見失ってしまいそうになる。
「美穂さんの様な方を、音楽の申し子と言うのですわ」
 そう。
 自分は音楽の事だけを、音を磨く事だけを考えていればいい。それをもう1度確認する為に、美穂は杏を探す。彼女の側には、いつも同じ空気が満ちているから。どんなに、人に取り囲まれていても、決して淀む事のない音楽への愛情が。
 
 4人の様子をそれぞれに窺って、離れた場所にいる仲間達と視線を交わす。
 今であれば、更なる情報を得る事も可能だ。
 交流会の雰囲気に、演奏者達の口調も砕けている。周囲に対する警戒も解いているようだ。
「友の会」の者達も、そんな演奏者達から直接に聞いた話を、我先に自慢そうに語っている。
 ゆっくり、魔皇達は交流会の輪へと足を踏み入れた。


【本文】
●外と内
 公開リハーサルの後は、平安フィルの友の会を中心としたパーティが催されるのが常であった。
 演奏者も裏方の者達も交えての交流会だ。
「俺は菓子屋を開きたかったのだが‥‥このナリではな」
 苦笑し、数人の娘達の目の前でワッフルを焼き上げた御堂力(w3a038)の言葉に、小さな笑いが広がる。本人を前にして笑うには気が引ける。だが、納得せずにはいられない。
「確かに、ちょっと見ただけじゃ怖いお兄さんですものね」
「こんなに美味しいお菓子を作れる怖いお兄さんなんて、いないわよぉ」
 好き勝手を言って、きゃらきゃらと笑い合う娘達に力の苦笑いが深くなった。
「‥‥怖いお兄さんもお菓子屋さんも、本当ですが」
 力の背にぼそりとした呟きが響く。彼だけに聞えた声の主は、配りたくて配れない『店』のチラシを握り締めて溜息をつくばかりだ。
「し、しかし、この平安フィルは活気があるようだな」
 不自然なくらいに。
 その言葉を、力は飲み込む。神帝軍の統制下にあって、これほどまでに活気があるとすれば、それはやはり神帝軍が関わっているからなのか。
 向けられた視線に、娘達は当然と胸を張った。
「優れた指揮者と演奏家が集まってるんですもの」
「優れた者達‥‥か」
 ふむ、と力は背後を窺った。心得たように動き出した静夜を確認して、視線を手元に戻す。香ばしく焼けたワッルに惹かれ、彼を取り巻く人数が増える。パンフレットを手にしているところを見ると、友の会のメンバーのようだ。
「‥‥友の会も、盛況のようだな」
 何故、今の世界でこれほどまでに熱狂出来るのか。
 生まれた疑問に、力は僅かに眉間に皺を寄せた。
 勿論、客に分からない程度だ。強面な上に、眉間に皺を刻んだりしたら客は逃げかねない。今の力にとって、有用な情報源が。
 そんな力の努力が呼んだ華やかに賑やかな一角を一瞥して、御神楽永遠(w3a083)は集った地元の名士達へと飲み物を運ぶ。
 彼らの話は退屈だった。己の自慢と他人の噂話。低レベルな会話が、上品な言葉で語られる場に、永遠が作る笑みがさすがに強張りかけた頃、ようやく話題は彼女が望んだものへと移っていった。
「しかし、朝霧さんはうまくやりましたなぁ」
 会話に耳を澄ます永遠の目に、彼らの間に混じっていた柳瀬の表情が映る。
 痛みを堪えるように、ぎゅっと引き結ばれた唇。名士達の言葉に、柳瀬が感じているのは憤りなのか、それとも‥‥。
 彼女の視線の先に、その意図を察した逢魔が柳瀬に近づく。
 天舞に柳瀬を任せて、永遠は知らぬ振りを装って首を傾げた。
「朝霧さんってコンマスの朝霧さんですか?」 どっと、地位を持つ大人達が笑う。何も知らない少女への嘲りと、幾許かの優越感の響きを持つその笑いの真ん中で、永遠は更に困惑した表情を浮かべて見せる。
「ああ、違いますえ」
 一目で高価と知れる着物の袖を伸ばして、1人の女が永遠の持つ盆からグラスを取り上げた。指にはめられた派手な指輪が着物と合っていない。
 我知らず、永遠は顔を顰めた。
「朝霧はん言うんは、美穂はんのお父さんどす。娘可愛さに、お金をどぶに捨てる気で投資した楽団がこんなに大きゅうなって、棚からぼたもちな話やて言うとります」
 その場の誰からも否定は無かった。
 何者か分からない永遠にまで聞かせるという事は、彼らの中で当たり前に交わされている話なのであろう。誰に聞かれて困るものでもない、噂話。
「うちらは、ここがただの地方楽団やった頃から柳瀬はんの頼みで支援しとりましたえ。それが今じゃ‥‥」
 落ちた溜息が埒もない悪口へと変わるのに、そう時間は掛からなかった。

●彼女達
 華やかな場で居心地悪そうに、隅でジュースを手にしていた鳴海杏を見つけて、ジャンガリアン・公星(w3f277)は夜霧澪(w3d021)の逢魔小百合と見交わした。
「こういう場は、苦手ですか?」
 返ったのは、困ったような笑み。
「確か、杏さんは留学されていたとか。欧米の音楽界は、もっと賑やかだったのでは?」
「ええ。あちらでは社交界にも直結していましたし」
 すっかりファンモード全開の小百合が、あっと声を上げた。リアンの逢魔、鳳がインターネットで集めて来た情報の中に紛れていた記述を思い出したのだ。
「そ‥‥それってウィーンですよね!?」
 綺羅綺羅しい紳士淑女が、豪華なシャンデリアの下で華麗にワルツを舞う姿を思い浮べて、小百合はうっとりと宙を見つめる。
 こほんと咳払いをして、リアンはさも驚いた風に尋ねた。
「音楽の本場に!? それは凄い」
「あ‥‥あの、ウィーンと言っても‥‥ずっとそこにいたわけでは‥‥」
 恥ずかしそうに、杏は俯く。
「一時期、無理をお願いして、ウィーンのオーケストラの練習に参加させて頂いた事があるだけなんです」
 杏の経歴は、鳳の洗い出したデータから一通り頭に入れている。内気な娘は、音楽が絡んだ時にだけ積極的になるようだ。留学中、彼女はまるで武者修行でもするかのように、各国、各地のオーケストラを訪ねて歩いていた。
「それでも凄い」
 ますます身を縮込ませる杏に、ああとリアンは人の垣に埋もれた男の姿を探す。
「じゃあ、沢渡さんとはこの楽団に入る前にも?」
 はいと答えた杏に、無機質な硝子の奥に隠された瞳が鋭さを増す。
 世界的指揮者を平安フィルに招いた美穂と、留学先で共演していた杏。出会ったのはどちらが先か。そして、どちらが‥‥。
 視線が薙いだ先、美穂はよく見知った男と親しそうに語らっていた。
「待ち人は来ないようだな」
 グラスを満たした液体が僅かに澪の唇を湿す。
 自嘲めいた笑みを浮かべて、美穂は彼と同じ飲み物を一気に呷った。
「来ないのは、分かっているのよ。あの人は本番にしか来ないもの」
―でも、待たずにはいられない‥‥か。
 冷静な目で美穂を観察していた澪の心に同情が兆す。愚かだと頭では分かっていても、抗い難い感情に心を乱される‥‥根ざす感情は違うが、澪にも経験がある事だ。それは、人として当然持つもの。神帝軍に搾取されてなお生まれ出るもの。
「そう、か」
「それにね、あの人が会いに来るのは私じゃないの」
 無言の時が流れる。どちらも黙り込んで言葉を発しない。そんな2人の雰囲気に、友の会のメンバーも楽団の仲間達も声をかける事も出来ずに遠巻きに眺めるのみだ。
「‥‥あなた、変わってるわね」
 しばらく経って、ようやく口を開いた美穂の第一声がそれであった。
 虚をつかれたように、澪が瞬く。
「‥‥そうか?」
 なんだかほっとすると、美穂は笑った。
「沈黙が優しいなんて初めて知ったわ」
 資産家の娘で音楽の才能が溢れていれば、さぞや周囲は賑やかであっただろう。良きにしろ悪しきにしろ。何か言葉を紡ごうと口を開きかけた澪は、ふいに気配を感じて振り返った。
 気づかぬうちに、彼の隣りに立つ影。楽団の事務局に勤めている娘だ。これと言って特徴のない、ごく普通の娘が間近まで近づいて来た気配を感じ取れなかった事に、澪は愕然とした。
「美穂さん、コンダクターが美穂さんを呼べと‥‥」
 嫌そうに、美穂は表情を歪める。
「あの、だいぶお酒を召されているみたいで‥‥」
 申し訳なさそうに告げる娘に、分かったわと手を振って、美穂は澪の持つ盆にグラスを返した。
「奈々は心配しなくてもいいわ。酔っ払いは適当にあしらっておくから」
 不安そうに美穂を見送る奈々に、澪は視線で問う。
「多分、今回の曲について‥‥。分科練習の時から、揉めていたみたいですから‥‥」
 慌てて、奈々は澪に向かって頭を振った。
「で、でも、あの2人にはいつもの事らしいので心配する必要はないかと」
 自分の不安を打ち消して言い切った奈々と、割れた人垣の中で声を荒げ始めた沢渡と美穂を見比べて、澪は深く考え込んだ。

●花束
 突然始まった口論に、友の会で得た俄友人達を相手に情報収集していた逢坂薫子(w3d295)は呆気に取られて騒動の中心人物達を眺めた。
「あなた、これを見るのは初めて?」
 周囲の冷静な様子に、またもや面食らって薫子は頷く。
「凄いでしょ? こんな風に所構わず衝突し合って、平安フィルの音楽は出来ていくの」
 互いが互いの音楽を譲らずに、ぶつかりながら生み出されていく音。だからこそ、既製品の音楽では持ち得ない情熱を保っているのだろうかと改めて2人を見た薫子のポケットで、携帯が震えた。
 話し相手の少女に断りを入れて、薫子はエントランスへと出る。取り出した携帯の画面に並ぶ文字に息をつくと、大きな硝子戸の向こうから歩いて来る男に視線を投げた。
「これを、鳴海杏さんに」
 強い芳香を放つ深紅の薔薇の花束を薫子に手渡すと、男は口元を僅かに上げて踵を返す。
「おやおや、魔嬢様も隅におけませんなぁ」
 茶色の髪を揺らして去って行く男の背を見送っていた薫子の額に、ぴきりと青筋が浮かんだ。彼女の様子に気付かぬように、逢魔千代丸は頻りと頷きを繰り返す。
「わたくしの知らぬ間に、ご立派になられて‥‥」
 そっとレェスのハンカチーフで目元を拭った千代丸に、花束を持つ薫子の手が震える。
「あのな‥‥」
 しかし、衆目のある場で怒鳴りつけるわけにも、ましてや蹴りを入れるわけにもいかない。ぐっと堪えて、薫子は息を吐き出した。
「そ‥‥それにしても高そうな花束だな。この艶やかな紅さといい、形といい最高品種と見た。1本当たりの相場からして、これは少なく見積もっても‥‥」
「魔嬢様! はしたない!! 贈り物を金額換算なさるとは!」
 話題を逸らしたのに、口喧しいチェックが入る。ふいと目を薄暗い照度に設定された天井のライトに当てて、薫子は歩き出した。
 ゆっくり、じっくり、丁寧に千代丸のぴかぴかに磨かれた靴を踏みつけて。
「あら? その花束は‥‥?」
「杏さんにと言付かっのですけれど」
 会場に戻るや否や、たちまち友の会の仲間達に取り囲まれて、薫子は花束の威力を知った。口々に素敵と呟く夢見る少女達に顔が引き攣るのを必死で留めて、頬に手を当てる。
「こう言う事を聞くのはあまり行儀の良い事ではありませんけれど、‥‥この薔薇の花束はいつ頃から届くようになりましたの?」
 か細く、けれど周囲にはっきりと聞こえるよう、会話が途切れるタイミングを見計らって尋ねた薫子に、彼女達は互いを見合った。
「最近‥‥よね」
 今、初めて気付いたかのように、彼女達は薔薇を凝視する。
「薔薇の君の印象が強すぎて、ずっと続いていたように思っていましたわ」
 戯けた少女の一言に、周囲が笑み崩れた。
「でも、おかしいですね。いつも、薔薇の君は直接、杏さんに手渡されますのに」
 ぎくりと笑みを強ばらせた薫子に気付かず、別の少女が反論の声を上げる。
「そんな事ありませんよ! 私、この間の演奏会の時、薔薇の君が奈々さんに花束を預けているのを見ましたもの」

●汚れなき想い
「しかしまぁ、なんだな」
 交流会を終え、祇園の有名な甘味処に美穂と杏を連れ出した水本一郎(w3b359)は、名物のパフェにスプーンを入れる2人を微笑ましく眺めながら呟いた。
「音楽について熱く語るのはいいが、客の前では止めておいた方がいいと思うな」
 水本の視線を受けて、美穂は恥ずかしそうに肩を竦める。
「分かってるの。‥‥でも、つい」
 酒に酔った沢渡は、曲に対する美穂の解釈との相違を客に向かって語った。自分の解釈の方が優れていると豪語までして。自分の音楽を否定された気がしたのだろうと、水本は美穂の心情を考える。
「俺はここに入って間がないが‥‥いつもああなのか?」
 肯定を返したのは杏だった。
「でも、美穂も沢渡さんも、お互いの音楽を認め合っているから」
 そうかと水本は手を組む。力を抜いた様子の彼を不安そうに見遣って、美穂はスプーンを止めた。
「今日、美穂君の音に余裕無く感じた。それは、自分の音楽を押さえつけているからか?」
「余裕‥‥がないように聞こえました?」
 俯いた美穂の不安を吹き飛ばすように、水本は笑う。
「少し張りつめた感じがした。ただそれだけなんだがな」
「じゃあ、やっぱり余裕が無いんです。今回の曲、沢渡さんの望むように弾くと、私の思い描いたものと違うってどうしても思ってしまうから」
 なるほどと頷く。
 勝ち気な美穂も、さすがに参っているらしい。
 僅かばかり躊躇って、それでも水本は手を伸ばした。
 幼子にするように、ぎこちなくその頭を撫でる。
「え‥‥?」
「音楽は、音を楽しむものだ。確かに、大勢の音を合わせるオーケストラでは他人の音に合わせなければならない事もある。だが」
 1呼吸置いて、水本は続けた。
「それでも、君自身の音はどこかに必ずあるはずだ。君が『音楽』を楽しんでいるのであれば」
 水本の言葉を補って、杏も美穂に笑いかける。
「美穂、私も、水本さんの言う通りだと思うの。音楽を楽しむ心は、絶対に忘れちゃいけない。楽しめない音では、私達の心は届けられないの」
 同意を求めて見る杏に力強く頷いて、水本は店の片隅へと目をやった。1人寂しく飲み物を口に運んでいた影山が微かに首を振る。
 周囲に不審な気配はないようだ。‥‥何か仕掛けて来るかと思ったが‥‥。
 だが、何かが、引っ掛かる。指に刺さった小さな棘のように、それは絶えず水本に警鐘を鳴らしていた。

●外堀
「おや? 美穂ちゃんはまだお戻りでない?」
 知っているけど、とは顔に出さない。
 美穂は今頃、杏と共に祇園にいるはずだ。水本が連れ出すと言っていたから。
「どうしようかねぇ? 汚しちまった美穂ちゃんの服、クリーニング出来たから返しに来たんだけどねぇ」
 リハーサルと交流会の時間を利用して、彼女は預かった美穂の服をクリーニングに出して来た。泣きそうになる店員を急かせ、僅かな時間のうちに受け取る事が出来たのは、一重に彼女が山田ヨネ(w3b260)であるからだ。
 長年鍛えた舌先には、誰も太刀打ちが出来ない。朝出して夕方バッチリどころではない離れ技も、彼女であれば納得出来る。
「まぁ、どうぞお入り下さい。そのうち美穂も戻って来るでしょう」
 穏やかな紳士の言葉に、ヨネは「それじゃあ失礼しますよ」と即座に框へと上がった。最初からそのつもりである。遠慮も何もない。
「これはほんの手土産ですが。うちの孫がおすすめの、最近流行っている菓子屋なんですけどね」
 勝手に見当をつけて奥へと進みながら、ヨネは持っていた菓子屋『シュバルツバルト』の紙袋を紳士へと差し出す。
「お気遣いありがとうございます」
 ふむ‥‥と、その物腰を見ながらヨネは不満そうに口を尖らせた。
「いかがされましたか?」
「ああ、なんでもないよ」
 美穂の父親という男は、紳士である。
 それはヨネも認める。だが、彼は紳士な「だけ」だ。神帝軍の持つ神々しさは感じない。やはり、影は楽団の中にあるのか。‥‥判断するのは、マリちゃん達の結果を聞いてからだけどね。
 マリ達は調べの結果を持って、鳳の隠れ家に集っているはずだ。
 不機嫌そうに黙り込んで思考に没頭したヨネに、美穂の父は娘の早い帰宅を心底から願った。
COPYRIGHT © 2008-2024 桜紫苑MS. ALL RIGHTS RESERVED.
この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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