どらごにっくないと

カウンターカウンターカウンター

歌の翼に

  • 2008-06-30T16:05:24
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
『‥‥永遠にたえせず御栄えあれ 御栄えあれ‥‥アーメン』

 オルガンに重なった声が余韻を残して消えていく。
 全ての音が途絶えた空間で、人々はしばし神への祈りを捧げる。
 厳かな雰囲気の中、慈しみに満ちた笑顔を信者達へと向け、励ましや他愛もない言葉を掛けて歩いていた神父は、1人の青年の傍らに立ち止まった。
 手を膝の上で組み、頭を垂れる青年の肩に手を置く。
「そろそろ、迷子のお迎えに行ってあげて下さいね」


「平安フィルが?」
 コーヒーのカップを受け皿に戻して尋ねた魔皇に、月見里葵は「はい」と頷いた。
 集った者達の視線が、隅に座っていた女性に向かう。
 彼らの視線に、女性は居心地悪そうに身を縮込ませた。
「演奏会、か。アレ以来だな」
 神帝軍が平安フィルの演奏会を利用し、感情を集めているという情報に魔皇達が潜入して以来だ。色々あって、音楽を愛する人々の心を神へと捧げていたグレゴールは、今、ここにいる。
 葵の世話で、翠月茶寮近くのアパートに身を潜めるようにして暮らしている鳴海杏だ。
「戻りたいか?」
 尋ねられて、彼女は身を震わせた。
 彼女が音楽を愛し、平安フィルを愛していたのは、皆が知る事。
 ぎゅっと握られた手に、彼女の迷う心が窺える。
「今回の演奏会は」
 輪島塗りの髪留めを外し、手早く髪の毛を纏め直しながら、葵は告げる。
「『薔薇の君』と呼ばれる者が発案し、スポンサーを集めて行われるもののようです」
『薔薇の君』、杏と馴染みの深いグレゴール、テリエルである。
 1度、魔皇の手から逃れる際に力を借りて以来、杏が「純粋な心」を集める協力をしていた男だ。
「演奏曲目は、ハープが主となる楽曲を中心に組まれています。‥‥なお、平安フィルが新たなハーピストを採用したという話は聞いてはおりません」
 これは罠か。
 杏の平安フィルを愛する心をついて、彼は逃げた杏を捕らえようというのだろうか。
 それとも‥‥。
「どちらにしても、私は行ってみます」
 震える声で、杏は呟いた。
「捕らえられ、罰を受ける事になっても‥‥それでも、楽団の皆に何も言わず辞めてしまった事を謝りたい‥‥沢渡さんや、美穂に‥‥」
 魔皇達は顔を上げる。
 ずっと彼女の中で燻り続けていた罪悪感を、彼らは感じていたのだ。
「皆様‥‥」
 促す葵の言葉に、彼らは笑みを見せた。
「分かっている。‥‥杏ちゃんの気が済むまで、俺達が守っていてやるさ」


【本文】
●朝の花壇にて
 よし! と自分自身を入れて逢坂薫子(w3d295)は見上げていたレンガ造りの教会へと足を踏み入れた。聞いた住所に偽りが無いのであれば、ここには京都メガテンプルムを取り纏めるプリンシパリティがいる。
 立ち塞がる警備のグレゴールとサーパントの襲撃は予想のうち。
 もしかすると、魔皇の自分に対するSFの罠か何かが仕掛けられているかもしれない。
「おや、おはようございます」
 ‥‥かもしれない‥‥。
 象さんジョウロで花に水を遣っていた権天使の呑気な挨拶に、薫子は思わず自分の背後を振り返ってしまった。そこに、誰かいるのではないかと思ったのだ。
 だが、その場にいるのは彼女と権天使のみ。
 他の誰の気配もない。
 とりあえず自分を指さしてみると、にっこり頷く。
「‥‥お‥‥はようございます‥‥」
「はい」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、薫子はてくてくと歩み寄った。
 誰からの妨害もない。
 よく考えると、この地で彼以上に強大な力を持つ天使はいないわけで。自分達より強い者をガードするような性格のグレゴールも、京都にはいないはずだ。
「何やってんの」
「お花に水遣りですよ。お仕事しないとテレちゃんに怒られますからね」
 いいのか、それで。
 つーか、それ以前に「仕事」の意味を間違えてないか?
 等々と思ってはみたものの、口に出して下手にやる気を出されても、魔皇に害が及ぶと困るので何も言わない。これはこれでいいのだと無理矢理に納得させて、花々が美しく咲き誇る花壇に目をやった。
 濡れて朝日に光る緑の葉、芳しい芳香を放つ大輪の花。どの花も、慈しまれて育った事を物語る。
「ねぇ、あれ何?」
 そんな花壇の真ん中に、当たり前な顔をして居座る異質なモノ。
 尋ねた薫子に、彼は事も無げに答えた。
「ああ、あれは京都中に設置されたルチルが集める人の祈りを受け取る水晶ですよ。んー‥‥受信器ってところでしょうかねぇ?」
 ねぇ? と聞かれても。
「‥‥こ‥‥っ」
 唇を震わせた薫子に、アンデレは首を傾げた。
「こんなトコにンなモン置いとくなーーーーッッ!!!」

●彼の真意
 カランとグラスの中で氷が音を立てる。
「それで」と彼は尋ねた。
 薫子がアンデレから聞き出した今回のカラクリは、先ほど彼女の逢魔・千代丸(w3d295)承知している。だが、この男の本心が知りたい。
「私に聞きたい事があるそうだけど?」
 馴れ馴れしく肩に置かれた手に眉を寄せ、それでもラルラドール・レッドリバー(w3a093)は平静を装って彼に隣を勧めた。
「アンタに確かめたい事がある」
 彼−テリエル−は、一瞬だけ虚を突かれたように目を見開き、そしてラッシュの頭の天辺から爪先までをしげしげと眺めた。
「なんだ、男か」
 ぷちり。
 ラッシュの中で小さな音が響く。
 本当にあるんだな、堪忍袋。‥‥なんて事を考えべつつ、ラッシュは照明器具を止まり木にしている彼の逢魔・アゼル(w3a093)の姿を思い浮かべる。
 切れた堪忍袋の緒を結び直すアゼルの姿を。
「男だよ。悪かったな」
 明らかに落胆した表情を見せるテリィに、口元を引き攣らせてグラスを取る。流し込んだ酒の芳醇な香りも、今は彼を慰めてはくれなかった。
「それで? 聞きたい事とは何だい?」
 アンデレが彼に仄めかした内容は分かっている。まどろっこしい事はせずに、ラッシュは単刀直入に尋ねた。
「ハーピストがいない楽団で、ハープを中心とした楽曲をプログラムに盛り込む理由と」
 ラッシュが、彼らの目的を知っているとは思ってもいないのだろう。テリィは薄く笑みを浮かべるだけだ。更に、ラッシュは問いを重ねる。
「プログラムにハーピストの名が無い理由」
「まだ決まっていない、と考えるのが妥当な所だとは思わないのかい?」
 嘲って、ラッシュは片肘をカウンターにつく。
「演奏者も決まっていない演奏会なんざ、誰が聞きに来る」
 くすくすと笑って、テリィはグラスを揺らした。氷が硝子にぶつかって涼しい音を立てる。
「シークレットライブというのはよくある事だよ」
 一応、納得した振りをして窺うと、柔らかく笑っているのが照度の落ちた店内でも分かった。
「‥‥でも、皆、誰が来るのか分かっているだろうね」
「ふぅん」
 素っ気なく相槌を打つと、ラッシュは天井へと目を走らせる。
 心得たように、小さなオウムが羽根を羽ばたかせて、来客で開いた扉から外へと飛び出して行った。
「輝きを失った女性に協力を求めるのは、痛々しくてかなわない」
 ぽつり落としたテリィの呟きに、彼の本音が混ざっているような気がして、ラッシュはほんの少しだけ表情を和ませた。

●待つ人達
「ご無沙汰を致しております」
 扉を開けて丁寧に頭を下げた御神楽永遠(w3a083)に、パート練習に励んでいた団員達の手が止まった。
 一時期だけとは言え、彼らの仲間として共に『音』を作り上げた永遠の来訪に、団員達は楽器を置いて出迎えた。
「突然の引っ越しでちゃんとご挨拶も出来ぬままお別れして申し訳ありません」
 なんの、とチェリストの柳瀬が少しばかり芝居がかって両手を広げた。
「それぞれの事情は致し方ない。こうして、また訪ねてくれた君の気持ちが嬉しいよ。‥‥お祖父さんもお元気そうで」
 永遠の背後に控えていた逢魔・天舞(w3a083)が黙って頭を下げる。彼は柳瀬とも親しかったのだ。
「皆様、あれからお変わりなく?」
 小首を傾げた永遠の動きに合わせて、艶やかな髪がさらりと流れる。
「あ‥‥まぁ、色々とあってね」
 ぽりと頬を掻いた柳瀬に代わり、指揮者の沢渡が苦笑を刻んだ。
「君達が抜けた後、ハープの杏君が辞めてね。その経緯があって‥‥皆、楽団に対する情熱を失ったというか何というか‥‥」
 感情搾取か。永遠の表情が強張る。だが、それは杞憂だったようだ。
「けれど、杏君はこの楽団を愛していた。きっと何か理由があったんだ。だから、杏君が戻って来られるように自分達も楽団を守ろうと決めたんだよ」
 以前よりも人が少なくなった団員達の強さを秘めた笑みに、永遠は安堵を覚えながら天舞と顔を見合わせた。
「もしかして、今回の演奏会は?」
 尋ねた永遠に、沢渡も柳瀬もはっきりと頷く。
「絶対に、杏君が戻って来るから、と美穂君が提案したものでね。スポンサーも彼女が見つけて来てくれたんだ」
「まあ、美穂さんが‥‥」
 薫子とラッシュが調べた通りに事は進行している。そうですかと頷いて、永遠は微笑んだ。
「私達、今回はしばらく時間があるので、お手伝い出来る事があれば何なりとおっしゃって下さいね」
「それはよかった!」
 団員達がどよめく。何人かが飛び出して来て彼女達の手を取った。
「ご覧の通り人不足でね。大歓迎だよ。あ、誰かフルートのパート譜を用意して」
 がしりと掴まれた腕と柳瀬の言葉に動揺した天舞に、永遠は思わず声を出して笑ってしまった。さすがに、これは彼にも予想外だったようだ。
「お? 何だ? 賑やかだな」
 朗々と響く声に、それまでざわめいていた団員達が静まり返った。開いた扉から顔を覗かせた2人組に声を失う。
「ああ、御神楽くんじゃないか。確か、君も退団したと聞いていたが」
「水本さんも、影山さんも、お辞めになったのですよね」
「事情があってな。だが、このチラシを見て、居ても立ってもいられなくなった」
 水本一郎(w3b359)が見せた演奏会のチラシに、永遠は優しげな視線を団員達に向ける。自分達の演奏会のチラシを手に会話を交わす元団員達に、沢渡は頭を振った。
「全く。今日はなんて日だね」
「沢渡さん」
 窘めた柳瀬に泣き笑いの表情を見せて、沢渡はその背を叩く。
「辞めた者達が演奏会の報を聞いて駆け付けてくれた。なんとも喜ばしい事じゃあないか」
 辞めた団員達で穴が空いたまま行う演奏会だ。音に偏りが出来る、厚みも失せる。そんな悪条件を覚悟の上で開催を決めた。無様でも、彼らの音楽が届けばいいと。
「ちゃんと届いている。そう信じよう」
 永遠と顔を見合わせて、水本は力強く告げた。
「人は、居場所を見失うと迷う。だが、貴方がたの音への情熱が、楽団を愛する心が我々に届いたのだ。今は迷子となっている者にも、必ず届く。奏でる調べが導となる!」
 水本の言葉に、逢魔・影山(w3b359)もぐっと拳を握り締めた。
「この演奏会、必ず成功させましょうッ! 俺達も及ばずながら力になりますッ」
「それは有り難い。ティンパニーの奏者が足りなかった所なんだ」
 影山の肩を叩き、沢渡は水本、永遠、天舞の顔を順に見た。
「‥‥本当にありがとう」

●親友
 以前に訪れた事のある美穂の自宅を訪ねて、山田ヨネ(w3b260)は彼女への面会を求めた。かつての訪問でかなりのインパクトを残していたらしいヨネは、すぐに客間へと通された。
「‥‥よっぽどな何かをやらかしたのか、それとも」
 失礼な事を呟く夜霧澪(w3d021)の足を思いっきり踏みにじり、ヨネは傍らにいた逢魔・マーリ(w3b260)の手を取り、さっさと座り心地の良いソファへと腰を下ろす。
「さて、美穂ちゃん。久しぶりだねぇ、元気でやっ‥‥」
「あれからどうだ? 変わりはないか」
 ヨネの言葉を遮って、唐突に澪が尋ねた。睨み付けるヨネの視線に気づかず、美穂は少しやつれた頬に笑みを作る。
「お陰様で。何とか楽団は存続しています」
 杏が神帝軍であった事。
 そして音楽を愛する心を神帝軍に捧げていた事。
 美穂にとって、それら全てがショックだっただろう。あの時は語る事もなかった自分達の正体も、薄々勘付いているに違いない。なのに、彼女は変わらずに接してくれる。
「今回の演奏会は」
「鳴海の為じゃないのか?」
「‥‥マリちゃん」
 再びヨネの発言を奪った澪に、今度こそ彼女の怒りの鉄槌が落ちる。しかも、美穂に悟られる事なく、最も効果的な報復である。
 心の中で申し訳ないと何度も澪に謝りながら、「美穂を優しく気遣う澪」をこっそりと携帯に付いているカメラにおさめ、マーリはそれを澪の逢魔・小百合(w3d021)へと送った。
 杏の為にファンの会に潜入していた折の伝を使って奔走しているサリーがどんな反応をするのか、火を見るよりも明らかである。
「それは‥‥」
 言い淀んだ美穂に、報復行為をお首にも出さず、澄まして茶を啜っていたヨネが湯飲みをテーブルに戻す。
「今回の事は薔薇の坊主の発案だってね。美穂ちゃんや、アンタ、今でもアイツに惚れているのかい」
「‥‥惚れているとか、そんな事は」
 憧れに似た想いを抱いてはいたが、彼が杏と楽団を利用していたと知った時に、淡い想いは消えた。美穂は視線を手元に落とす。
『杏を楽団に戻す』
 それは、薫子がアンデレから聞き出した今回の真意だ。
 楽団を去った彼女が、日増しに輝きを失っていく様を彼は気に掛けていたようだ。そして、テリィも。
『あの子は女の子には優しいんですよ』
 咲いたばかりの花で作った花束を薫子に手渡し、アンデレは父親の顔でそう語ったと一部始終を見ていた千代丸は言った。杏を利用しているだけではないとラッシュからの報告も届いている。途中で、猫に遊び相手に選ばれた挙げ句、息も絶え絶えに茶寮に飛び込んで来たアゼル自身も確かにそう感じたらしい。
 テリィは信頼出来る相手ではないが、仲間が言うのであれば信じてもいいだろう。
「アンタは今でも杏ちゃんを親友だと思っているかい?」
「勿論です」
 即座に返った返答に、ヨネはにぃと笑った。
「アンタの気持ちはよーくわかったよ。アタシ達も、及ばずながら力を貸そうじゃないか。どぉんと大船に乗った気でおいで!」
 どんと胸を叩いたヨネに、澪の頬が微かに痙攣する。己の未来が見えたような気がしたのだ。
 そんな澪の不安など知る由もない美穂は、目元を潤ませて深々と頭を下げた。

●元の場所へ
「ひどいですッ」
 茶寮の扉を乱暴に開けて飛び込んで来たサリーの開口一番の言葉がそれであった。膨らませた頬は、怒りの為に紅潮している。
「どうしたの? そんなに皆の反応が‥‥」
 店の隅に座っている杏を慮って、御堂力(w3a038)の逢魔・静夜は声を潜めて尋ねた。
 インターネットだけではなく、実際に平安フィルのファンの集いに参加して情報を集めていたサリーの憤慨した様子に、最悪の状況となっている事を察したのであろう。
「聞いて下さい、静夜さん! 澪さんってばひどいんです! 私がこんなに一生懸命調べているって言うのにッ」
 突き付けられた携帯の画面に映っているのは、美穂といい雰囲気な澪の姿だ。
 大きく溜息をついて、力は椅子から立ち上がった。
 岩山が動くが如く、ずしりずしりと近づくその巨体に怯えて、サリーが1歩後退る。
 ひょいと猫の子を摘み上げる要領でサリーをカウンターの席に座らせた。
「ファンの動向は?」
 溜息をつき肩を竦めて、静夜は川西光矢(w3b595)と顔を見合わせる。サリーの怒りも分からないでもないが、今はそれよりも彼らが必要としている情報を得る方が先だ。
「ファンの間でも、今回の演奏会は杏さんが復帰する為のものだと噂になっています。概ね好意的なのですが」
 そこまで告げて、サリーは声を落とす。
「中には、平安フィルの現状は杏さんの脱退が原因だと思っている人もいて‥‥どうやら妨害計画も練られているようです」
 ふぅむと力は腕を組んだ。神帝軍に問題はない。ないどころか、彼らの計画にこっそり協力をしようと目論んでいるぐらいだ。
 しかし、相手が一般人となると‥‥。
「‥‥大丈夫です」
 俯いた杏の手に手を重ねて、ぎゅっと握りしめると光矢の逢魔・雪夢(w3b595)は杏を見上げた。
 あまり表情を表に出さない彼女の瞳が優しく見えて、杏はぎこちなく微笑む。
「‥‥綺麗な‥‥音、聞きたいです」
 杏が、美穂の演奏を真似たマーリと共に曲の練習をしている事を雪夢は知っている。きらきらと光が零れるような音の流れが集まって大きくなった時、どんな風に聞こえるのだろう。期待が自然に口をついて出た。
「そうそう。あなたがそんな顔しちゃ駄目っしょ。俺、ずっとあなたのファンだったんですよ? あのカスタネットの音、忘れられないなぁ」
 ひょおおおおおお‥‥。
 雪夢から発せられる冷たい気配に効果音がついているように感じられて、光矢はこのまま永久氷壁に閉じこめられるのではないかという危機感を覚えた。
「じょ‥‥冗談デス。それはともかく、楽団の皆も、ファンも杏さんの事を信じているみたいだし、杏さんも信じてるんでしょ? だったら、最後まで信じなきゃ。悪さをする連中なんて、どこにでもいるもんだし」
 一般的に悪さをすると思われている魔皇の言葉は、妙に説得力がある。
「笑顔で行きましょ、笑顔で。このお花みたいに」
 ふいに光矢の指先に現れた花に、杏の目が見開かれた。そして、ずっと曇り気味だった顔に輝かんばかりの笑みが戻る。
「‥‥こないだ再放送してました‥‥」
 ぽつりと零した雪夢の言葉に、乾いた笑いを漏らして、静夜は力を振り返った。
「んじゃ、店長。わたくし達は杏さんを悪い子ちゃん達から守りつつ会場まで送るって方向で」
「任せておけ」
 にやりと口元を歪めた力に、静夜も唇を引き上げた。
「お主も悪よのぉ」
 その悪企みに一役買う気満々で、静夜は他の仲間達に視線を送る。
「不参加」を表明する者は、誰1人としていなかった。

 そして、1人のハーピストが、とある演奏会にてかつて所属していた楽団に復帰した。
 神魔と人とが望んだ音楽は心を揺さぶる名演奏として、長く語り継がれる事となったのである。
COPYRIGHT © 2008-2024 桜紫苑MS. ALL RIGHTS RESERVED.
この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
第三者による転載・改変・使用などの行為は禁じられています。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]

Copyright © 2000- 2014 どらごにっくないと All Right Reserved.