どらごにっくないと

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【アンデレからの招待状】可能性、その先

  • 2008-06-30T16:08:42
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
 その爆弾は、夕飯時に落とされた。
 突然に美味しい冷や奴が食べたい等と我がままを言い出した彼の為に、下準備を完了していた食材を明日に回し、まだ大学にいた大天使に、歩いて行くには少々遠い豆腐の名店までのお使いを頼んだ。
 そうして、ようやく完成させた料理に舌鼓を打ち、自分(達)の苦労を僅かばかり慰めていた時に、彼が言ったのだ。
「魔皇達を、テンプルムへご招待しようと思います」
 当然、誰も即座に反応は返せなかった。
 いつもと変わらない笑みを浮かべて、彼は凍りついた周囲を気に留める事なく豆腐を口に運び、「これは大豆の芸術と呼んでもいいですよね」などと呑気な事を呟いている。
「魔皇を招待とは、どういう意味でしょうか」
 とりあえず、真っ先に自分を取り戻したのは、アタッシュケース片手に豆腐の買出しに出向いた大天使であった。大学の研究室には当然ながら丁度良い大きさの桶もボウルもなかった為に、どこからか調達して来た実験器具に2丁の豆腐を入れて帰って来た強者でもある。
「言葉の通りですが、どうかしましたか?」
 不思議そうに尋ね返されて、副官たる彼も再び黙り込むしかなかった。
「魔皇をテンプルムへ招待して、それからどうされるおつもりですか?」
 少しだけ言葉を補って、彼女は尋ねた。
 のほほんと、彼は彼女に視線を向けて微笑む。
「勿論、テンプルムの中をご案内するんです。彼らにとって、御所や秘仏の観覧よりも滅多に出来ない経験になりますよ」
 そりゃそうでしょうとも。
 その言葉を、彼らは暖かなご飯と共に飲み込んだ。
 ギガテンプルムに捕らえられていた経験はあるはずだが、あの時の彼らに「観覧」なんて余裕はなかったはず。
「私はね」
 箸を置いて、彼は居住まいを正した。
「ここしばらく彼らと交流して思ったのですよ」
 交流とは、日がな一日、魔皇の「溜まり場」で呑気にお茶を頂いて、談笑する日課のアレだろうか。
「魔皇と人の間にある隔たりは、まだ埋める事が出来る。手遅れではないのです。そして、我々も」
 ああ、愛皇様。
 世の中には、悪魔化した魔皇も、神帝軍滅すべしと戦いを挑んで来る凶暴な魔皇もいると言うのに、それでも貴方は「魔皇」と手を取り合う事が出来ると信じておられるのですか‥‥。
 テレジアは手元に視線を落とした。
 このまま、卓袱台をひっくり返して暴れてやろうかしら。
 そんな考えが一瞬過ぎる。
「いくら我らがそう望んでも、彼らが応じない限り無理です」
 言い切った。
 言い切りやがりましたよ、この大天使。
「ですから、彼らの本意を聞く為に、テンプルムへ招くのです。京都のテンプルムがどのような所で、我々が何を望むのか、互いに本音をぶつける時が来ていると、私は思います」
 我々の望み。
 彼らの望み。
 そして、神帝と魔皇の狭間に立たされた、何の力も持たぬ人と。
 思いの全てをさらけ出して、互いが進むべき道を選ぶ時が来たのだと、彼は告げる。
「しかし、万が一にも彼らがテンプルムで戦闘を仕掛けた場合、如何ほどの被害が出るか」
 大天使と権天使との間に交わされる会話。
 多少、不安の混じるそれを聞きながら、彼女は京都の街に思いを馳せた。
 各地に設置したあの水晶がある限り、魔皇は人に近い者となる。逢魔もまた同じ。
 だが、自分達の力を封じられた魔皇は、それをどう思うのだろう。
 アンデレの考える「理想の地」は、彼らに受け入れられるのだろうか。



「‥‥我々は出来る限りの準備をしました。この京都で全ての者が普通に、ありのままに暮らせるように、と。異形に対する人の怯えも簡単には無くなりはしない。それでも、私は可能性に賭けたいと思います」
 静かに言い置いたアンデレに、葵はカウンターに置かれた招待状を見つめた。
 神と魔と、そして人の可能性。
 その1つの形が、今、示されようとしている。
「分かりました。我々も、真剣に考えて答えを出したいと思います。貴方達神帝軍が良かれと思って行ったという準備を、我々がどう受け取ったのか‥‥。ちゃんと話し合うべきだと思いますから」


【本文】
●会談
 互いに向かい合って座った。
 誰も口を開かない。
 街の喧噪も、上空に位置するテンプルムにまでは届かず、神帝軍の居城は無人の廃墟の如く静まりかえっている。
「こっ、此度っ」
 沈黙の中、最初に言葉を発するのに、どれほど緊張したのであろうか。噴き出す汗を拭い拭い、上擦った声を張り上げるアドバーグ・エルトール(w3j384)に、彼の逢魔・神楽(w3j384)は心底嫌そうに、飛んで来る汗が届かない位置へ椅子を動かす。
「神魔の話し合いの場が設けられると知り、我輩、居ても立ってもいられずに、駆け付けた次第であります!」
 神魔の平和共存実現を願って結成された≪Blue sky≫の一員である彼は、この会談が和平への道に連なるものであるようにと、祈るような心地で対面に座する者達を見つめた。
「そうですか。わざわざのお運び、ありがとうございます」
 微笑まれ、礼まで述べられて、アドは更に流れ落ちた汗を拭って生真面目な礼を返す。
「さて」
 マザーの茶会を途中で抜けて来たアンデレは集まった者達を見回した。いつもの笑顔のまま、声色に真剣味を滲ませて。
「それでは、始めましょうか」
 同じく、茶会から会談に移った大天使、リューヤが資料を手に立ち上がる。
「既に周知の事と思うが、先日、京都エリアを囲む結界が完成した」
 ざわめきは魔皇の中から起きた。
「魔皇と逢魔の力が使えなくなるという、あの結界ですね」
 キャンベル・公星(w3b493)の問いに、リューヤは鷹揚に頷く。
「君達が最も感じ取れる効果がそれだな」
 リューヤの合図と共に、室内の灯りが落とされた。同時に、壁をスクリーンにして、京都の地図が浮かび上がった。赤く点滅している所が、結界を形成している針水晶の位置なのであろう。
 かなりの数である。
「こんなに‥‥」
 呟いた声は誰のものだったのか。
 戸惑いが魔皇達の間に流れた。
「私は」
 静かに、キャニーは顔を上げた。まっすぐにリューヤを見つめて、彼女は言い切る。
「DFは、生きる為に必ずしも必要なものではありません。魔皇としての力を抑え、人と同じとなるは私の望む事。謹んで戒めを受け入れます」
 傍らの逢魔・スイ(w3b493)は俯いて主の言葉を聞いている。会談に余計な火種を持ち込まぬよう、率先して魔皇達の武器を回収した彼女も、主と同じ気持ちなのであろう。
「そうねぇ」
 頬に手を当てて、物部百樹(w3g643)はふふ、と笑った。
「キャニーちゃんの覚悟には、モモも色々と応援したいトコロだわ」
 くすくすと笑い続けるモモに、逢魔・敬助(w3g643)がその脇腹を肘で突く。こんな真面目な席で、いつもの調子でやられては逢魔として堪らないとでも思ったのか。
 その肘をていっと払って、モモは続けた。
「リューヤちゃんにも言ったけど、モモにとって、神も魔も人もないの。今までは生きる為に必要だったけど、必要無いものなら要らないわ」
 今度は神帝軍側の出席者がざわめく番であった。
 魔皇の力を抑える事は反発しか招かない、神帝軍の中にもそんな考えがあったのだろう。
「魔の力を抑える事で、神と魔と人の垣根が無くなっていくのなら、僕も歓迎します」
 出された茶を一口含んで、風樹護(w3i336)は穏やかに語り出した。
「僕達も、人を傷つけたり物を壊したりしたいわけじゃありませんから」
 自分達は魔に属する者だが理性はある。
 神に属する者達を前に、護はきっぱりと告げた。
「勿論、降りかかる火の粉は払いますけれどね」
 始まる前の緊張感は、もはやない。
 互いに歩み寄る可能性を見出した者達の安堵にも似た溜息が室内に幾つも零れる。
 そんな、穏やかに流れるかと思われた場に一石を投じたのは、北条竜美(w3c607)であった。
 腕を組み、終始無表情で彼らの意見を聞いていた彼女は不意に立ち上がると、手にしていたポータブルDVDプレイヤーと思しきものをアンデレの前へと投げ捨てる。
「俺としちゃあ、拳で語り合う方がお互い楽なんだけどねぇ」
 そこで言葉を切ると、竜美はテーブルに手を突き、唇を引き上げてアンデレを凝視した。
「神帝軍は自身の存在と行動を常に正しい、他よりも価値ある存在と認識し、それに反する存在は悪とみなす。正直、ムカつくな」
 権天使を前にしても、全く怖じる様子もない。
「自分達の絶対的正義の為に、その脅威となる存在を排除しているようにも見えるし」
 色めき立ったグレゴール達を手で制して、アンデレは竜美の瞳を見返した。
「貴様らに、そして、こいつらの言葉に耳を傾けているお前達に問う。絶対の正義を掲げる者達が間違いを犯さない保証がどこにある。その過ちを認識せず、止める者も居ない状況は容認すべきものか?」
 人の歴史を顧みれば、似た事例はいくつも転がっているだろう。
 正義を掲げた独裁者がもたらした悲劇が。
「人という名の羊を飼い慣らす羊飼い共、それは俺からのプレゼントだ。そこに映っているモノを見て、もう1度自身の存在価値でも考えろ」
 言い捨てて、竜美は踵を返す。その後を逢魔・骸牙(w3c607)が慌てて追い、ふと足を止めた。
「少なくとも、今現在、この地の統治権はあなた方にあります」
 灰色の瞳が居並ぶ神帝軍の代表達に向けられる。
「それに異議を抱き、我々は自分の思う通りに事を成しているだけです」
 ぺこりと軽く頭を下げて、骸牙は扉の向こうへと消えた主の後を小走りに追った。
「我輩は自分が『魔』であると知っても、特に何も感じませんでした。我輩が我輩以外の何者でもないのだから、と」
 竜美が去った後に落ちた気まずい沈黙の中、それまで成行きを見守り黙っていたアドが遠慮がちに口を開く。
「『魔の力』を誇りにさえ思っておりました。この力をもってすれば、人々を苦しめるものを成敗し、守る事が出来る。そして、自分は力に溺れず、支配される事もないとも信じておりました。ですが」
 厳ついアドの顔に苦渋の表情が浮かぶ。
「『悪魔化』、あれを目の当たりにして、その自信も揺らいだ。我輩も、あのように理性も何もない存在に成り得る可能性がある。我輩は、魔の力を甘くみていたようです」
 手元に残されたDVDプレーヤーを撫でて、アンデレは頷いた。
「分かるような気がします」
 魔皇として、神帝軍の支配が絶対の正義かと投げつけた竜美の言葉と、魔皇である己の力に疑問を抱いたアドと。どちらの気持ちも、分かるような気がした。
 彼自身も、強大な力を持つが故に。

●手を携えて
「今、ここに居る我々が語る言葉は、あくまで我々の考えであり、魔皇として統一された意見ではありません」
 頓挫しかけた会談を再開させたのは、穏やかに語る護の言葉であった。
「それも分かっています。我々も、同じですから」
 神帝軍の中でも、意見は様々に分かれている。この人界に共に降り立った者達を思い浮かべて、彼は小さく肩を竦めた。
「神も魔も人も、皆、己が正しいと信じるものに向かって進んでいるのですよ。彼女と同じようにね」
 神帝軍の掲げる正義に異議があると言った彼女達は、その信じる道を進んでいる。
「私とて、貴方達魔皇が人に害すと判断したならば、排除しようとするでしょう」
「でも‥‥」
 場の雰囲気に怯え、主である鍛人錬磨(w3f776)の影に身を潜めていた逢魔・小狐丸(w3f776)が、小さな声を上げた。
「むつかしーことはわかーなーです。けど、れーまさま、すきです。あおい姉ちゃも、りゅーやのおっちゃんもてれじあ姉ちゃもすきです。みんな、けんかしなーでいっしょにいられたらうれしーです」
 たどたどしくも、一生懸命に自分の気持ちを告げたこんの頭をくしゃくしゃと乱暴に、けれど優しい手つきで撫でて、錬磨はアンデレに向き直る。
「俺の言いたい事は、こいつが言っちまったようだ。俺も、戦いたくて魔皇の力を使っていたわけじゃない。ただ、大切な人に危害が及ぶなら守りたい、その火の粉を振り払いたい。そう思っている。あんたと同じようにな。‥‥人として生きられるなら、人と神と魔が歩み寄れるならば、あんた達の言う『理想の地』に反対するつもりはない。だが‥‥」
 全ての者が同意を示すはずがない。先の事を考えると、やはり不安は生まれる。
 やれやれ、と少々乱暴にカップを置いて、逢坂薫子(w3d295)は溜息をついた。
 いつもよりも上品な装いで会談に参加していた彼女は、椅子の背もたれに身体を預けて自嘲を口にする。
「どうして、皆、同じ所で躓くんだろうねぇ」
「魔嬢様」
 窘めた逢魔・千代丸(w3d295)の顔にも苦笑が浮かんでいた。
「同じモンに躓いたんならさ、皆で一緒に乗り越えりゃあいいのに」
 大きく腕を伸ばすと、大人しくしていた間に凝り固まっていた全身が解れていく。
「神帝軍は魔皇の力が人に害なすと考えて、それを抑える仕組みを作った。魔皇は力を抑えられる事によって、神帝軍が暴走した時に歯止めが効くか心配。ついでに、その仕組みを運営するのが神帝ってのが気に入らない。結局はどっちも信用してないんだよなァ」
 薫子の言い様が面白かったのか、アンデレは声を上げて笑った。
「わたしだって、おっちゃん達の人となりは分かっていても、他のトコの介入がないか心配に思うもん」
「魔嬢様のおっしゃる事に付け足させて頂くならば、私共の力だけが制限を受け、そちら様に何の差し障りもないという所に不公平さを感じますな」
 髭の形を整えながら、さらりと自分の意見を付け足した千代丸と、平然と紅茶のお代わりを要求している薫子に、リューヤは溜息をついた。
「リューヤ様?」
 声を掛けたキャニーの目の前に、リューヤは小さな水晶を幾つか落とす。
「話は最後までちゃんと聞きなさい。これが、京都全域に設置された結界を形成しているものだ」
 魔皇達は身を乗り出し、テーブルの上に落ちた透明な輝きを見つめた。こうして見ると、ただの水晶だ。これに何らかの付加が加わると、魔皇達には触れる事も出来ない結界の基石となる。壁に映し出された地図に点滅している箇所が、まさにそれである。
「このルチルの役割は、日常における人々の祈りや関心、興味などの心を吸収し、それらを増幅してテンプルムへと集める事にあった。これが、DFに制限をもたらすと分かったのは、実験を開始した後だ」
 初めて知る事実。
 誰も、何も言えずに、ただリューヤを凝視する。
「い‥‥言われてみれば、おかしかったわよね。わざと神帝軍の名前を前面に出して活動したり、感情搾取する側にとって入れ食い状態の観光地の出入りを制限してみたり‥‥」
 それらの全てが、この小さな水晶の実験の為に行われたというのか。
 モモは唖然としながら、転がった針水晶を摘み上げた。
「協力、感謝する」
「‥‥どーいたしまして」
 モモにしては珍しく忌々しそうな舌打ち。それでもどこか楽しんでいるような響きがあって、彼と数年来の友人は笑いを抑え切れなかった。
「なァに? 何がおかしいの? 敬助」
「いや、別に」
 表情を改めて、敬助は主が摘み上げた水晶に視線を戻す。
「ルチルは我々の期待以上の効果を上げてくれました。過剰な感情搾取無しに、テンプルムは力を得、人が恐れる貴方達の力を抑えて、京都を私の『理想の地』へと近づけてくれた」
 椅子に腰掛けたまま、アンデレは笑っていた。
 深く、穏やかな笑みだ。
「人は異質な存在に敏感です。人にとって、我々も貴方達も同じかもしれない。けれど、ルチルが形成する結界は、人との間にある垣根を低くしてくれる。そう、貴方の言った通りに」
 護へと視線を向けて、アンデレは立ち上がった。
「人が過ぎたる力‥‥銃や刀、暴力を取り締まる法を持つように、我らも強すぎる力を管理する術が必要でした。そして、それは我々、神帝軍だけで出来る事ではない」
 夜霧澪(w3d021)は、組んでいた腕を解いた。
 傍観者のように神帝軍の言い分と仲間達の会話を聞き、この京都で見聞きした出来事を思い返していた彼は、アンデレの意図する所を悟ったのだ。
「『理想の地』とやらを謳いながらも針水晶‥‥ルチルと言ったか、これが人の心をテンプルムへと集めるのは、テンプルムがその力を失うわけにはいかないからだな」
 京都の周囲はきな臭い。アンデレの力が及ぶ範囲では激しい衝突の噂はあまり聞かないが、食うか食われるかの戦いが各地で起きている。悪魔化した魔皇も未だ脅威として存在している。
 京都のメガテンプルムの存在、プリンシパリティとヴァーチャーの存在が、彼らの動きを牽制し得るのであれば、その力を放棄するのは得策ではない。そして。
「DFの制限は、全ての魔皇が一様に受ける。だが、力が全く使えなくなるわけではない。また、全ての神帝軍がアンタ達の考えに賛同しているわけでもない」
「そうです」
 つまり、と澪は上着の下に着けていたホルスターから愛用の銃を抜き出した。
「あっ! 武器の類はお預かりしますと申し上げましたのにッ」
 スイの非難に手を合わせて謝ったのは、澪の逢魔・小百合(w3d021)だ。
「まだ、俺の力も必要‥‥という事か」
 薄く、澪は笑んだ。
 全ての人が平和にのんびりと暮らせる世界など、一朝一夕に出来るはずがない。
「ルチルによる結界は、『理想の地』を築く為の土壌を整えたに過ぎません。人と魔と神とが何の隔たりなく暮らせる地を作るのは、これからなのです」
「‥‥分かった」
 伸ばされた手を、澪は固く握った。
「澪‥‥さん?」
 主の行動に首を傾げたサリーに、澪は銃を投げて渡す。慌てて受け止めたサリーは、そのずしりとした重量感に、表情を引き締めた。
「神魔と人が共に暮らす世界‥‥と言えば聞こえはいい。だが、そんなものが簡単に実現するはずがない。DFを制限された事に不満を持つ魔皇を神帝軍が取り押さえれば、これまでと変わらん」
「‥‥魔皇と同列に扱われる事に納得出来ないグレゴールの暴走を魔皇が止めるのも、ですよね」
 合点がいったと、護は大きく頷く。
「この京都を、人と神と魔が共に暮らせる地とするのは、神帝軍だけ、魔皇だけの力では無理と言う事ですね。これからの京都の治安維持には互いの力が必要となるでしょう」
 それまでの会話を書き留めていた護の逢魔・涼風(w3i336)は、ペンを走らせる手を止めた。
「剣には剣を、微笑みには微笑みを、そして握手には握手を‥‥」
「そう。無闇に刃を振るうのは愚か、されど、全く刃を持たぬもまた愚か。害なすモノに抗すべき力を持ちつつ、それを御する。あの方の考えと僕の考えは似ているようですよ」
 静かな笑みを湛えて、護は涼風の肩に手を置いた。
「どうやら、約束通りに抹茶のデザートを食べに行けそうですね」
「あ‥‥いいなァ」
 羨ましそうに、神楽は護と涼風を見た。だが、暑苦しい主と共にお洒落な甘味処でお茶なんてしたくない。
「では、わたくしとご一緒致しましょうか」
 気を利かせたスイが、口元に人差し指を当てて片目を瞑る。
 彼女の視線が示す先には、彼女達の主の姿がある。
「アンデレ殿、もしも‥‥もしも、我輩達に機会を頂けるのであればッ」
 神楽の魔皇は、やはり暑苦しく。
「リューヤ様、許されるならば、私は‥‥」
 スイの魔皇は、真剣な眼差しで、互いの想いの丈をぶつけていたのであった。

●中立宣言
『これ以降、京都は神帝軍と魔皇、そして人が自由に行き来出来るエリアを目指します』
 魔皇をテンプルムへと招いた翌日、京都メガテンプルムのプリンシパリティ、アンデレの名が記された書状が、各テンプルムと隠れ家へと届けられた。
 彼の意見に賛同した魔皇の署名が添えられた書状は、事実上の京都中立宣言であった。
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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