どらごにっくないと

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【結婚しようよ】愛あらばこそ

  • 2008-06-30T16:11:09
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
 京都メガテンプルムのプリンシパリティ、アンデレ付きのファンタズマ、テレジアは考えた。
 水晶の結界も京都全域にほぼ行き渡った。
 魔皇達との状態も、一応は安定してきている。
 未だにきな臭い周辺エリアの方々には申し訳ないが、少しぐらいハメを外しても良いだろう、と。
「という訳で」
 茶碗に炊き上がったばかりのご飯をよそいながら、テレジアはにこやかに宣言した。
「結婚式を執り行いましょう」
 食卓を囲む者達の反応が僅かばかり遅れる。
 爆弾を落とすのは、のほほんプリンシパリティ、アンデレの役目(?)だったのだ。予想外の人物からの投下は、その威力を倍増させて周囲に襲いかかった。
「け‥‥結婚式?」
「結婚式〜っっ!?」
「結婚式ですか」
 上から順に、大天使のリューヤ、グレゴールのアリア、そしてプリンシパリティ、アンデレである。
 眉間に皺を寄せ、瞳を輝かせ、いつも通りにのんびりと。
 反応にも彼らの性格が表れて非常に分かりやすい。
「ええ、結婚式です」
 大仰に頷きを返して、テレジアは1枚のチラシを見せた。
 毎週、彼女が手作りしている教会報によく似たそれには、結婚式場の広告もかくやな宣伝文句が踊っている。
「京都もだいぶ落ち着きましたし、この辺りでそろそろお仕事をしなければなりません」
 笑みを湛えながら、ファンタズマは上官達に現実を叩き付けた。
「リューヤ様が大学から頂くお給金は研究費とフィールドワーク代でほとんど消えます。信者の皆様からの善意だけでは、この教会は運営出来ません。
 有り体に言えば、おまんまの食い上げです」
 ならば教会を引き払い、テンプルムに戻ればよいのだろうが、京都の人達の間で暮らしたいというのが総指揮官殿の強い願いであるからして、そうはいかない。
 楽しいはずの食卓に、沈黙が落ちた。
「テ‥‥テレジアおねーちゃん‥‥」
 瞳一杯に涙を溜めて箸を置き、アリアは手を組んでテレジアを見上げる。
「アリア、早く大人になって玉の輿に乗って、おじーちゃんやおねーちゃんを楽させてあげるからッ」
「‥‥‥‥気持ちだけ、受け取っておくわ」
 誰だ。
 汚れを知らぬ少女に変な知識を入れたのは。
 ちらりと探るように見ると、芋の煮っ転がしに箸をつけていた大天使が溜息と共に呟く。
「‥‥アレしかいないだろう」
 一時の落ち込みが嘘のように、イケイケ(死語)に戻ったティアイエルは、夜な夜な仲良くなった魔皇達に所に現れ、夜遊びへと引きずり回しているらしい。
「‥‥あれはあれで教育的指導が必要だと思うのですけれどね。ともかく、アリアは心配しなくていいの。生活の心配をするのは大人の仕事です」
 ね?
 強制的に同意を求められて、権天使と大天使は頷くより他なかった。
「そ・こ・で!」
 ばん! と卓袱台に叩き付けられるチラシ。
「結婚式、です」



「それで」
 カウンターの上に差し出されたチラシを前に、月見里葵はがくりと肩を落とした。
「どうして、いつもいつもウチに回ってくるのでしょう?」
 目の前のアンデレに悪気がないのは分かっている。だがしかし。
「‥‥駄目ですか?」
 日々、魔皇、逢魔と交流を深めている京都のプリンシパリティは、最近、色々な知恵をつけた。
 きゅうんと耳を垂れた子犬のような表情で葵を見上げる様は、まるで飼い‥‥もとい、主に審判を仰ぐ逢魔のソレを彷彿とさせる。
「だ‥‥駄目なわけでは‥‥」
 そして、質の悪い事に、彼は葵がソレに逆らえないという事実も正確に把握していた。
 息をついて、渋々と葵は承諾の意を込めて頷いた。ただし、という条件をつけて。
「私に協力出来るのは、このチラシを店内と隠れ家の掲示板に貼る事と、結婚を考えているらしい方々に声をかけてまわる程度です。それでもよろしいですか?」
「ありがとうございます」
 にこやかに、彼は笑った。
「当教会で結婚式を挙げて下さる方々の為に、このアンデレ、精一杯、力の限り、祝福させて頂きますね」
 葵の顔から血の気が引いた。
 すっかり失念していたのだ。
 彼の教会で結婚式が執り行われるという事は、すなわち、目の前の彼が‥‥‥‥。
 人生の新たな門出を、どうぞ平穏無事に迎える事が出来ますように。
 葵は、そう祈らずにはいられなかった。


【本文】
●側にいすぎて
 神帝軍のプリンシパリティ、アンデレの元で挙げる結婚式!
 生活にかかる費用は神帝軍に頼らず、自分で賄うのが京都神帝軍のきまり。生活費の為だというのは、かなりの信憑性のある噂であったが、それでも一応は神に近き権天使。新しき人生の門出にその祝福を‥‥と願う結婚予定者は予想以上に多かった。
 特に、普段のアンデレの知らぬ一般人が。
「うっわぁ、商売繁盛ですねぇ」
「‥‥光くん、商売って‥‥」
 びっしりと書き込まれた予定表を見て、正直な感想を述べた風海光(w3g199)に、逢魔・翼(w3g199)が控えめに窘めた。結婚式が商売だなんて、そんな事、夢見るヲトメにはちょっと聞き捨てならない言葉である。
「でしょう? 忙しくて忙しくて♪」
 教会の財政はかなり潤っているのだろう。テレジアは上機嫌だ。もう、笑いが止まらないらしい。
「そういえば、キャニーさんの逢魔・スイ(w3b493)さんからホテルと提携した結婚式の企画書を頂いてるんですよね。まぁ、ウチのアンデレ様は殺しても死なない御方ですし、どーんと来いって感じですよね」
「すっ‥‥素晴らしいですわぁ〜」
 突如として下方から上がった声に、テレジアは生花を持ったまま視線を足下に下げた。
 手を組み、目にハートを浮かべた金髪の少女が1人。
「おねーさまと呼ばせて下さいましのっ!」
 どんっと足に抱きつかれて、テレジアは花を抱えたままでバランスを崩した。いかなファンタズマとて、人の状態でいきなり足にタックルをかまされては倒れるしかない。が。
 予期していた衝撃は訪れなかった。
 代わりに、少々硬めなクッションが彼女を受け止めたのだ。
「あら、丁度よい所に緩衝材が」
「‥‥誰が緩衝材だと?」
 すぐ側から低い声がして、テレジアは倒れかけた体勢のまま、そろりと目を上げる。どこか尊大な表情を浮かべた男が、倒れた彼女を支えていた。
「ああっ! おさすがですわッッ! アーシエル様ッ」
 テレジアに突撃をかましていた娘は、そのままアーシエル・エクスト(w3b434)へと目標を変えた。目にも留まらぬ速さで、テレジアを支えるアーシエルの腕にぶら下がる。
「式の司会として呼ばれたアーシエル・エクストだ」
 ぶら下がった少女を、全く、これっぽっちも気にする事なく、アーシエルは名乗る。背筋を伸ばした無表情に近い青年と、枝にぶら下がった小猿状態の少女とを見比べて、テレジアは、はて? と首を傾げた。
「司会‥‥なんて、頼んでいたかしら」
「細かい事は気にするんじゃないよ! テレちゃん!」
 京都テンプルム最強のファンタズマの細い背中を力一杯叩いて、山田ヨネ(w3b260)は豪快に笑った。
「こんなめでたい日なんて、滅多に無いんだからねぇ! ひょ〜ひょっひょ!」
 彼女自身、いつもの煙草屋のおばちゃん風ではなく、ちゃんと家紋のついた留め袖を着ている。その背後には、こんな時でも相変わらずの主を頼もしそうに見つめている逢魔・マーリ(w3b260)の姿がある。
「僭越かと存じましたが、結婚式にはそれなりの演奏が必要と思いまして、平安フィルの皆様にもお越し頂きました」
 マーリの背後には、グレゴールである事を隠していた頃よりも生き生きとした杏と、彼女がグレゴールである事を知って、尚、受け入れたオーケストラの仲間達がいる。
「まぁ! フルオーケストラで? それはさぞかし‥‥」
「わたくしもっ!」
 アーシエルの腕にぶら下がったまま、少女が手を挙げた。
「わたくしも、お歌は大好きですのよ! あぁぁぁしえるさまがぁぁぁいちばんでぇぇぇすのぉぉ♪」
 突如として響き渡った調子外れの歌声に、その場にいた者達が耳を塞ぐ‥‥間もなく、どこからか取り出したガムテープで少女の口を塞ぎ、アーシエルは彼女を冷たく見下ろした。
「‥‥ティアラ、貴様、約束が守れんようなら‥‥」
 ガムテープで口を塞がれたまま、彼の逢魔・ティアラ(w3b434)はぶぶぶんと首を振った。
「‥‥では、大人しくカメラ係をしているんだな」
 今度は肯定の意味を込めて、ティアラの頭が何度も振られる。
「‥‥すまんが」
 アーシエルはヨネを振り返った。
「コレが何かやらかしたら、有無を言わせずに縛り上げてどこかへ吊しておいてくれ」
「‥‥‥‥あ‥‥ああ」
 さすがのヨネも、一瞬だけ何と答えるべきか迷った。
 だが、とりあえず、当たり障りなく頷いておく事にする。
「ヨネ様」
 そっと影のように寄り添ったマーリが、去って行く男の背を見つめながら彼女の主に声を掛けた。
「世の中には、まだまだ、いろんな魔皇と逢魔がおられるのですね」
「だからこそ、この世は面白いんだよ。マリちゃん」
 にかっと爽やかに歯を見せて、ヨネは腕をまくりあげる。
「さぁて、ここからが大忙しだよ。マリちゃんも手伝っておくれ!」
 猛然と会場に向かって行くヨネを見送り、そう言えば白く輝く歯が入れ歯か否かを聞くのを忘れていた‥‥と、テレジアはぼんやりと思った。
「すっ‥‥凄いね、翼ちゃん!」
 目の前で展開された瞬間劇に目を丸くしていた光は、翼の手を揺さぶり、幾分興奮気味に大声を張り上げる。
「やっぱり結婚式って凄いんだ! 凄いなぁ! 凄いなぁ!!」
「あっ‥‥あのね、光くん‥‥」
 知り合いが結婚し、その式に参列するなんて初めての経験である。
 見るもの、聞くものが物珍しくて、きょろきょろと周囲を見回していた光は、自分の手を引く弱い力に気づいて、項垂れた翼の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? 翼ちゃん。どこか痛い?」
 今にも零れ落ちそうな涙を堪えている翼に、光は慌てた。初めて参列する結婚式で自分が浮かれていた間に何かあったのだろうか。
「翼ちゃん?」
「光くん‥‥」
 涙声で、彼女は主の名を呼んだ。
「うん。ボクはここにいるよ? どうしたの、翼ちゃん」
「私‥‥私‥‥」
 俯いたまま、翼は何度か唇を湿しながら言葉を紡ぐ。
「私、光くんが好き。‥‥これからも、ずっと側にいたい‥‥」
 消えそうに小さな声は、しかし、確かに光に届いた。
「え‥‥」
 本当に驚いた時、人が返せる反応なんて限られている。
 精神が受けた衝撃に僅かに遅れて、体が動き出す。または、その逆。
 そこに居るはずのない人を見た時、考えるよりも先に体が動く。猫が驚いて飛び跳ねるが如くに。
 光の場合、前者だった。
 翼の言葉がゆっくりと、耳から入り聴覚神経を過ぎ、頭に‥‥いや、心に届く。
「えええっ!?」
 顔を上げられないでいる翼にも、動揺している光の様子は察せられた。悪い方へ、考えが傾いていく。どんどん、どんどんと。
「翼さん」
 穏やかな声が翼の名を呼んだ。
「光くん」
 そして、光の名も。
 声がした方へ視線を向けると、そこにはきっちりと神父服を着込んだアンデレが静かに佇んでいた。やはり腐っても権天使。正装をしているとそれなりに神聖な威厳を感じるような気がしないでもない。
「アンデレ様」
 その手に抱えているのは、純白の布地。
「用意しておいてよかったでしょう?」
 尋ねて来る声に、翼はぎゅっと胸元を掴んだ。胸が痛い。きっと、アンデレは誤解をしているのだ。彼女の想いを、光が受け入れてくれた、と。
 でも、それは違う。
 見てはいなかったけれど、翼には光の動揺を感じていた。
 彼女の想いに、動揺していたのだ‥‥。
 唇を噛んで、零れそうになる涙を堪えた翼の手に、滑らかな手触りの布地が触れる。女の子ならば、一度は憧れるその衣装。もう、着る機会はない。光の為以外に着るつもりは、ないから。
 堪えていた涙が、知らぬ間に頬に流れ落ちていた。
「アンデレ様、私は‥‥」
 意を決し、ドレスを差し出してくれるアンデレを見上げた翼は、涙に濡れた目を見開いた。
 白いドレスを差し出していたのは、アンデレではなかったのだ。
「ひ‥‥かる‥‥くん」
「ありがとう、翼ちゃん‥‥ボク、いつも自分ばかりで、翼ちゃんが側にいてくれるのが当たり前で‥‥翼ちゃんに不安な想いをさせてたんだよね。ボク、もう少しで大切な人を無くすとこだった」
 恐る恐る、ドレスを受け取る翼の唇を、光は掠めるように奪った。
「ひ‥‥光くんっ!」
 こほんと小さな咳払いが2人を現実に引き戻した。
「あー‥‥それは、お式の方で」
 真面目な神父を装ったアンデレが、悪戯っぽく片目を瞑る。
「本番は大勢参列者の前ですからね。覚悟していてくださいねぇ」
 ふふふふふ。
 本当に天使かと思わずにいられない程に、含みを持った笑い声に、翼は硬直し、光は‥‥。

●結婚式の裏の方
「これで最後かッ!?」
 早朝と言うよりも真夜中から戦場の様相を呈していた『シュバルツバルト』の工房で、完成した最後のケーキを厳しい目でチェックした御堂力(w3a038)は、半ば放心状態のスタッフを振り返った。
 耐久菓子作りレースで1週間、寝ずにスイーツを作り続けるよりもきつかった。
 何故ならば、彼らが作っていたのは、新しい門出を迎える者達へ手向けられる特別なもの。普段の菓子作りに手を抜いているわけではないが、それ以上に神経を使う。
 飾り付けの1つ1つ、クリームに混ぜる食紅の微妙な色遣いに、繊細な飴細工に、彼らは全神経を集中させ、持てる全ての力を注ぎ込んだのだ。
「‥‥あ‥‥後は、頼みましたぜ‥‥」
 震える手を伸ばし、力尽きた店員達の心を確かに受け取って、力は力強く頷いた。
「任せておけ。後は搬入だけだ。お前達の心、新郎新婦に届けてやるッ」
 サラシを巻き直すが如く、前掛けの紐を締め直す。
「ケーキは慎重に積み込めよ! 車内の室温と振動対策も怠るな! ケーキをそれぞれの出番までベストの状態を保つには、個々に管理が必要だ!」
 余力のある者達が、力の指示で保冷車の設定とケーキの積み込みに走る。
 新郎新婦への祝福を込め、皆して命がけで作ったケーキだ。ほんの僅かな油断が微妙な調和を崩しかねない。誰もが真剣な面持ちだ。
「よし、後はキャニーから頼まれたドレスを積み込めば終わりだな。静‥‥」
 がつんと。
 がつんと鈍い音が響いた。
『シュバルツバルト』の店内に。
 一瞬にして静まり返った店内の中、主の後頭部を強打した星球棍を肩に担いだ力の逢魔・静夜(w3a038)が、スタッフを見回す。
「じゃ、行ってきますから。後はよろしく」
 ずるずると引きずり、意識の無い魔皇を助手席に乗せて走り去って行く保冷車を見送りつつ、彼らは思った。
「後ろの方が腐敗が進まないんじゃあないッスかね」
「馬鹿たれ。精魂込めて作ったウェディングケーキの隣に死体を乗せられてたまるか」
「というより、店長、あの程度じゃ死にませんって」
 彼らの視線の先、いくつかの星球棍が転がっている。そのどれもが(酷)使済みだ。
「‥‥それもそうっスね」
 納得して、彼らは後かたづけと開店の準備に取りかかった。

●来るべき日と現在と
 新婦の控え室で純白のドレスに身を包んだ少女が1人、薔薇色に頬を染めて呟いていた。
「ああ‥‥わたくし、幸せすぎて気がどうにかなりそうです」
 開かれた窓の外から、爽やかな風が吹き込んで来る。花の香りと、これから共に歩む幸せな日々を誓い合う、女の子にとって幼い日から憧れ続けて来た夢の一時と。
 朝からずっと描いていた甘い甘い想像に、フィルターによる効果が更にかかって彼女は、いつ後ろに倒れてもおかしくないような状態であった。
 まさに、天に昇る心地を味わっていたのである。
「式の前からあれで大丈夫かなぁ」
 窓の下、結婚式のばたばたで忘れられていた花壇の花々へ水を遣りながら、逢坂薫子(w3d295)は呟いた。結婚という言葉に憧れる気持ちは分かるが。
「だってさぁ‥‥わたしは‥‥」
 ぷちぷちと雑草を引き抜く薫子の表情が翳る。
「おや、ありがとうございます」
 太陽の光が遮られ、影が出来た。
 振り返ると、アンデレがいつもの象さんじょうろを手に立っている。
「お水を遣るのを忘れていたのですけれど、あなたが遣ってくださったのですね」
 花びらや葉に注がれた水が、花々を活き活きと見せている。花壇の真ん中にある水晶原石にも、ちゃんと水が掛けられていた。
「うん。わたし、参列者だからさ、式の時間まで余裕あるし。うちのジジイが、わたしが手伝うと余計な手間がかかるって失礼な事言うしさ」
「千代丸さんは、式場内の飾り付けを手伝って下さっていましたねぇ。そういえば。そうそう、何やら聖歌隊のケープを所望されていましたよ」
 聖歌隊‥‥。
 ぐぐっと薫子の拳が握り締められた。
「あンのジジイ‥‥。自分だけ聖歌隊に潜り込む気だっ」
 その後に続いた「ずるい」という小さな声に、アンデレは呑気な笑い声を響かせた。そんな彼に、薫子は俯いて再び雑草を毟り始める。
 こんな日に、する必要のない草むしり。
「あのさ、オッちゃんは結婚とかしないの?」
「私が?」
 驚いた顔をして、アンデレは薫子を見た。
 いつも、何を考えているのか分からない飄々とした彼の驚いた顔は、薫子の笑みを誘う。
「私がですか? こんなおじさんなんか貰ってくれる人は居ませんし」
 それに‥‥と、彼は声を潜めた。
「私が結婚なんて話になったら、それはもう大騒ぎですよ。まず、真っ先に大阪から飛んで来る方がお説教して下さるでしょうし、東の方から戦闘中でも「馬鹿」と言う為だけにやって来る人もいるでしょうしねぇ。それはそれで面白いんですが」
 他人事のようにあははと笑っていた彼は、不意に言葉を切ると薫子を見る。
「何を心配されているのですか?」
 綺麗にセットされていた髪をぐしゃりと掻き回して、薫子は不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。
「分かってる癖に聞くなよなぁ。趣味悪い」
 悪魔化。
 自分は大丈夫と思っていても、魔皇である以上、いつ訪れるか分からないその瞬間。自分が自分で無くなる時、何が起きるのだろう。大好きな人達も大事なものも、全て自分の手で壊してしまうかもしれない恐怖。
 中立宣言した京都の街では穏やかに暮らす事が出来るようになった。街の人々は、まだ逢魔や魔皇に驚くけれど、それもしばらくの間だけだ。
 鎖国が終わって150年。当時は奇異の目で見られていた外国人のように、いつか魔皇も逢魔も‥‥。
 でも、と薫子は思う。自分がその光景を見る日は来るのだろうか。
「‥‥お願いがあるんだけど」
「はい。何でしょう」
 水晶原石を見つめて、薫子は感情を込めないように言い放った。
「わたしがわたしじゃなくなったら、オッちゃんが処理して」
 答えはすぐには返らなかった。
「‥‥魔皇だけではなく、天使も人も、いつか人生の終焉を迎えます。いつ訪れるか分からないその日の為に、今を閉ざしていませんか?」
 深い、心の染み入る声だった。
「でもさ、魔皇の場合‥‥」
 薫子の肩に手を置いて、アンデレは立ち上がるように促した。
「リューヤは、まだルチルの研究を続けています。いつか、悪魔化に有効な効力を付加出来る時が来るかもしれません。希望を失った時、世界が動いている事も、太陽が輝いている事も忘れてしまう人がいます。‥‥あなたは?」
「わたしは‥‥」
 先の事より、今が大事。
 何故なら、未来は今の努力で変えられるから。
「わたしは、大丈夫だよ。オッちゃん」
 ぱんと軽く服についた土を払って、薫子はアンデレを振り返った。
「大丈夫。うん。‥‥それより、そろそろ時間じゃない? あの子、緊張が頂点っぽい」
 控え室の中で、式の手順を繰り返し、口上を暗誦している花嫁の声が震えて来ている。
「ああ、いけない。早く行かないとテレちゃんに怒られてしまいます〜っ」
 神父がいないと式が進まない。
 慌てて教会へと戻って行くアンデレを見送って、薫子は再度、水晶原石を見つめた。
「魔嬢様」
「心配しなくていいってさ」
 掛けられた声に、薫子は努めて明るく声を張り上げて逢魔・千代丸(w3d295)を振り返り‥‥。
 ぼごっ、と何かが地面にめり込む音がした。
「なっ‥‥何をなさいます! 魔嬢様ッ」
「そのウィーン少年合唱団な服をさっさと脱いでこいッ!」
 それまで薫子の中に渦巻いていた不安が跡形もなく消えていた。
 いつもと同じ千代丸との遣り取り。
 いつもと同じ、京都の日々。
 いつもと同じ‥‥。

●愛あらばこそ
 厳かに流れるパイプオルガンの音。
 祭壇へと続く絨毯の上を、白いタキシードを着たクルハシ・ミコト(w3b555)の腕に逢魔・テクタイト(w3b555)が軽く手をかけて進む。
 神々しい笑みを浮かべて、アンデレが彼らを迎える。
 ヴェールで顔を隠したテクタイトに向かって微笑んで、ミコトは定められた位置で足を止めた。
「それでは、これより新郎クルハシ・ミコトと新婦テクタイトの‥‥」
 アンデレに代わり、式の進行を進めるアーシエルの言葉が終わらぬうちに、聖堂の扉が乱暴に開かれた。参列者の視線が、入り口に集中する。
「その結婚、ちょっと待ったぁぁぁぁっっ!!!」
 逆光を背負い、立つ2つの影。
 どう見ても、そのシルエットは女性。しかも、ウェディングドレスを着ている。
 アーシエルの頬に薄く笑みが刻まれた。
「ふ‥‥。花婿を奪いに来たか。まあ、いい。それもよかろう」
「いいンデスカ‥‥」
 マイクを握り直すアーシエルに、個性ある魔皇にも慣れたはずのマーリの口調がぎこちなくなる。彼は、ヤル気満々だ。
 厳かな結婚式で始まってしまうのだろうか。
 格闘技中継もかくやな実況が。
「アタシはそれよりも、あっちが気になるよ」
 顎をしゃくったヨネが示すのは、事「格闘(乱闘)」になると燃える漢、力だ。いつもであれば、真っ先に気炎を上げつつ機会を窺っているのに、今日は何やら大人しく項垂れたままだ。
 そんな、参列者のひそひそ話など気にする事なく‥‥いや、恐らく耳にも入っていないのだろう、2人の娘は新郎新婦のみに用意されたヴァージンロードを、真っ直ぐに新郎の元まで歩み寄った。
「ミコト!」
 タキシードの襟元を掴みかねない勢いで、彼女は新郎に詰め寄った。
「その声‥‥姉さん?」
「姉さん、じゃないよ! あたし‥‥あたしのこの気持ちは本当なんだから! ミコトが好きで好きで堪らないんだから! だから‥‥だから‥‥!」
 ミコトの義姉、コウエンジ・アスハ(w3f111)の声が聖堂中に響き渡る。
「男なら‥‥男なら、あたし達の事、本当に愛しているなら‥‥皆一緒に幸せにしてみせなさいよーッ!」
 参列者達の憶測を囁き交わす声が消えた。
 しんと静まり返った聖堂の中、肩で息をするアスハと、その後ろで静かに待つ花嫁衣装の娘、そして新婦であるテクタイトの目がミコトに集まる。
「僕は‥‥」
 突然の出来事に驚いていたミコトの口から零れたのは、意外な程に落ち着いた声であった。
 そのまま、彼はアンデレを振り返る。
「僕は、僕を愛してくれている人達を幸せにしてあげたいんです。‥‥非常識って思われるかもしれませんけれど、でも‥‥」
 事の成り行きを見守っていた権天使は、傍らに控えていたテレジアを呼んだ。ミコトとテクタイトの結婚証明書を彼女に渡す。
 結婚証明書は、新郎新婦が正式に夫婦となった事を示す大切な書類だ。
 それを、他人に渡すという事は‥‥。
 白いレース地の手袋に覆われた手を口元に当てたテクタイトが息を飲んだ。きゅっと唇を噛み締めたミコトの、手袋を持った手に力が籠もる。
「ミコト‥‥」
 先ほどまでの勢いを無くしたアスハが、ミコトを気遣うように寄り添った。
 彼らに向き直ったアンデレに、視線を足下に落とし審判を受ける心地で彼らはアンデレの言葉を待つ。
「しばらくお待ち下さいね。すぐに、結婚証明書を作り直して来ますから」
 え? とアスハが顔を上げた。
 状況が飲み込めず、目を瞬かせたミコトに、アンデレは不思議そうに首を傾げる。
「署名の欄が4人分、必要でしょう?」
 聖堂が揺れる程に沸き上がる中、ミコトは花嫁達を掻き抱いた。
「皆で‥‥皆で幸せになろうよ」
 ヴェールに包まれた花嫁達の表情は見えない。けれども‥‥。
「なら‥‥それなら、姉さんじゃなくて‥‥ちゃんと名前で呼んで‥‥」
 涙声のアスハの震えを、肩に感じる。
「うん。わかったよ。‥‥アスハ」
 戸惑いながらも、ミコトのタキシードの袖口を握り締めてくる少女にも、ミコトは笑顔を向けて彼女を抱く。
「わたし‥‥も、ミコトが‥‥好き。‥‥ずっと傍に‥‥いて‥‥欲しい‥‥わ」
「分かってる。分かっているよ、サフィリン。皆、ずっと一緒だからね」
 たどたどしくも一生懸命に自分の気持ちを告げたアスハの逢魔・サフィリン(w3f111)の体から力が抜けた。彼女も緊張していたのであろう。
「さて、準備が出来ましたよ。皆さん」
 アンデレの言葉に、彼らは姿勢を正して並ぶ。
 4人が、順番にこの先の生を共に生きて行く誓いを口にしていく。その背後、透き通った音色が彼らに祝福の曲を奏でる。それに合わせて始まった平安フィルの演奏が、静かに式の妨げとならない音量で流れていく。
 困難と知りつつ、それでも自分達の想いを貫いた彼らへの祝福を込めて。
「ミコト、あたし達、皆、ミコトの事愛してる! いっぱい、いーっぱい可愛がってくれなきゃ嫌だからねっ☆」

●種族を越えて
 最初の式は波乱含みだったが、感動的に盛り上がった。
 参列者の中には、感極まって泣く者も出たほどだ。
 そんな余韻の中、聖堂の扉を開けてヴァージンロードを歩んで来た者達を見て、アンデレは手にしていた聖書を落としかけた。
「‥‥リュ、リューヤ?」
 新郎は、彼の副官たる大天使、リューヤであった。
「一体、何が‥‥。結婚? 貴方が?」
 顔をヴェールで覆っている新婦と副官とを見比べて、アンデレは困ったように傍らのテレジアを見た。
 澄ました顔をした彼女は、全て心得ているようだ。
 それもそのはずである。
 ヨネに頼まれ、彼と新婦との橋渡しをしたのは事実上、彼女だったからだ。
「おじーちゃん、アリアにままが出来るの」
 新婦のヴェールを持っていた少女が、その影からぴょこんと顔を出す。
「そ‥‥れで、こちらのお嬢さんはどなた?」
 珍しく動揺したアンデレが尋ねると、ヴェールの中から消え入りそうな声が返って来る。
「キャ‥‥キャニーです。キャンベル・公星(w3b493)‥‥」
「あ‥ああ、キャニーさんですか‥‥って!」
 今度は、まじまじと副官を見る。
 副官はあらぬ方向へと視線を投げていたりして。
「まぁ、2人に問題が無ければそれはそれで‥‥」
 うんうんと自分を納得させて、アンデレは自分の仕事に戻る。実の所、問題が無いわけではなかった。あの日、彼が仕事をさぼって遅咲きの桜とツツジを見に出かけた日から今日まで、キャニーの中に生まれた葛藤と、そして敵同士であった相手の伴侶となるまでの様々な出来事。
 ‥‥強制というか脅迫というか。この祝いの席ではあまり語られるべきではない事を、多少に使った仲間達の後押しがあって、彼らは、今、ここに並んで立っているのだ。
「リューヤは天使です。それでも構わないのですね?」
 最後の確認は、キャニーへと向けられた。
「はい。普通の人のような家庭を築いて行く事は出来ませんけれど、子供は‥‥アリアちゃんもおりますし、それに、今回の戦いで親を失った子供達を引き取ろうと考えておりますので」
 キャニーの脳裏に、白を基調とした家と、庭に咲き誇る真っ赤な薔薇、青々とした芝生が浮かぶ。そこには子犬(子狐)を追いかけて無邪気に遊ぶ子供達の姿。
 そして、陽光に包まれたテラスでリューヤと2人、微笑みながら彼らを見つめる自分が‥‥。
「キャ‥‥キャニー様、キャニー様ッ」
 介添人として控えていたスイが、どりーむの世界に入り込んだ主の袖を引く。
 子狐のユイとお揃いのタキシード姿のスイの慌てた様子に、新婦の状態を悟ったのであろう。
 1つ息をついて、リューヤはキャニーへと手を差し出した。
「さあ」
 促す声にはにかみながら、キャニーはそっとリューヤの手に手を重ねる。
「ま‥‥待ってくれ!」
 その声は、参列者の席から上がった。
「いや、この結婚に反対とか、そんなんじゃない。ただ‥‥」
 立ち上がった鍛人錬磨(w3f776)は、参列者の間を抜けて祭壇まで歩み寄った。
「ただ、天使と魔皇の結婚が認められるなら、俺も‥‥」
 強大な敵に向かう事に躊躇しない錬磨が、一瞬だけ言い淀む。
 言おうか、言うまいか。
 迷いの表情を見せた錬磨に、アンデレは慈愛に満ちた笑みを向ける。その笑みに、彼は迷いを捨てた。
 てけてけと自分の後をついて来ていた逢魔・小狐丸(w3f776)に笑みを投げ、錬磨はその女性の前に立った。
「けっ‥‥血痕‥‥じゃなくて、結婚してくれ!」
「は?」
 寝耳に水とはまさにこの事であろうか。京都テンプルム最強のファンタズマは、目を見開いた状態で硬直した。
「い、いきなりでも、なんでって言われても、好きなものは好きなんだッ!」
 結婚式の真っ最中のプロポーズである。
 しかも、つい先日まで戦っていた相手から、である。
 テレジアが正気に戻るのには、時間が掛かりそうだった。だが。
 シスター服の裾を引く手に気づいて、テレジアは足下に視線を落とした。
 その途端に、某CMの愛くるしい犬よりも瞳をうるうるとさせたこんと目が合う。
「てれじあねー‥‥かかさま?」
「ッッ!!」
 いつものように呼ぼうとして「母」と言い直したこんに、テレジアはぐらりとよろめいた。予期せぬ精神攻撃を食らった心地だ。
 こんを抱き上げ、共に真剣な眼差しを向ける錬磨に、テレジアは無意識のうちに頷いていた。
 自分が何をしたのか気づくよりも早く、錬磨とこんが喜びの声を上げていた。
 小さなこんの体を宙へと投げる錬磨と、はしゃぐこんの姿に、仕方がない風を装いながらもテレジアは僅かに頬を赤らめていた。
 望まれて悪い気はしないのが乙女心なのだ。
「ああ、何やら」
 目の前に、伴侶と共に並んだ腹心2人の姿に、アンデレは溜息をついた。
「娘を嫁に出す父親の心境が分かるような気がしますよ」

●ありったけの祝福を
 波乱につぐ波乱の後に来たのは、純和風で決めた新郎新婦であった。
 今度は何事もなく静かに式を進行出来ると、アンデレは心中で安堵の息を漏らす。
 それは、彼もよく知る者達であった。
 彼が通う翠月茶寮の主月見里葵と、いつの間にか彼女とそんな関係になっていた葛城伊織(w3b290)だ。
「ああ、そう言えば‥‥」
 思い返せば、彼が初めて外泊なるものをした宴会の時、2人は夜の空を寄り添って見上げていたような、いなかったような‥‥。
 かなり酒が回っていた為、記憶は定かではないが、確か、あの辺りから2人の間に親密な雰囲気が流れていたような気がする。
「心から、祝福させて頂きますよ」
 男らしく、どんと構えているようだが、どこか緊張が抜けない伊織の照れたような笑い。
 若者達の結婚と違い、大人同士の結婚である。
 急拵えではない、正式な手順を踏んで、準備に準備を重ねた式に何の滞りがあろうか。
「‥‥いやあ、なんだか拍子抜けするくらい、呆気なく何事もなく終わりましたねぇ」
「それが式直後、神父が開口一番に言う台詞ですか」
 口元を引き攣らせた伊織に、アンデレは同情を込めてその肩に手を置いた。
 最後の一組の式が終わり、新郎新婦も参列者も、皆、聖堂の外へと出ていく。青空の下で最後のイベントが待っている。
「葵さんのアレ、最高級品でしたねぇ」
 彼が言わんとしている事を察して、伊織から乾いた笑いが漏れる。
「婚約指輪はダイヤで、結婚指輪がプラチナ。そして‥‥」
 この後、翠月茶寮で行われる披露宴で彼女が纏う打ち掛けは西陣の最高級品。その他も‥‥。
「ははは‥‥。こういうのは金じゃないんで」
 それに、と伊織は思う。
 これは、彼がまだ「人」であった頃に稼いだ金だ。
 今にして思えば、妻となる女の為に貯めていたわけだ。何やら感慨深くもある。
「ああ、いい天気だ」
 見上げた空はどこまでも青い。
「ええ、貴方達を祝福してくれているのですね」
 伊織につられて顔を上げたアンデレが微笑んだ。
 その視線の先に、黒い翼を広げた少女の姿がある。
「久遠‥‥」
 彼の逢魔・久遠(w3b290)だ。
「式の後、すぐに姿を消したと思ったが‥‥。逢魔の姿に戻ってい‥‥た‥‥」
 彼の中にフラッシュバックする記憶。
 幼い日に見た、懐かしい光景。
 今はもう無い故郷、祖父に手を引かれて訪れた古い神社で出会った少女‥‥。
「そうか。あれは‥‥じいちゃん達が山神だと言っていたあの子はお前だったんだな、久遠」
 見上げる人々の中で、見間違える事のない姿を真っ直ぐに見つめて、久遠は微笑んだ。
「異形の私を山神と受け入れてくれた人達の最後の1人。‥‥伊織、貴方と葵様にありったけの祝福を贈ります」
 真っ青に空から、花びらが降る。
 新郎新婦の上にも、参列者の上にも、天使も魔皇も人も関係なく。
「久遠」
「‥‥伊織」
 彼女の温かな祝福に安らいだ表情を浮かべていた伊織は、晴れて妻となった葵に袖を引かれて振り返った。
「今、私の所にこんなものが落ちて来たのだけど」
「‥‥久遠」
 それは古ぼけたお守り。
 今はもう無い神社の名が記されたそれが願うのは‥‥。
「私達、出来婚じゃあないわよねぇ?」
 新妻の微笑みが怖い。
−久遠、気持ちは有り難いが、これはちょっと気が早過ぎだッ
 一部不穏な空気が漂う中で、アンデレは新たな門出を迎えた若者達の為に、幾度めになるか分からない祝福を贈った。

●場外(?)
 全ての式を恙なく終えたアンデレを呼び止めて、静夜は楚々とした仕草で2mはあろうかと言う巨漢を担ぎ上げ、彼の前に差し出した。
「‥‥はい?」
「わたくし達も結婚致しますので、祝福を頂けますでしょうか」
 予定に入っていなくて申し訳あれませんが。
 ぽっと頬を染めて俯く少女の姿は可憐だ。だがしかし‥‥。
「こちらの方は意識を失っているようにお見受け致しますが」
「ああ、いいんです。大丈夫です。のーぷろぶれむです」
 言うなり、静夜は主の右の親指の先をざっくりと切った。
「血判でいいですよね」
 あまりに悪びれぬ少女の様子に、アンデレは思わず頷いたのであった。
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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