どらごにっくないと

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遙かなる想いを《第2話》

  • 2008-06-30T16:20:40
  • 本田光一MS
【オープニング】
●前回までのあらすじ

 香川県高松市。
 過去には凄かったらしい一地方都市だが、今はひなびた地方だ。
 その一角にある古代城、屋島城(やしまのき)周辺の探査という名目でデートに出かけた魔皇達だったが、グレゴールらしき影は彼等には見いだせなかった。
 調査と共に与えられていた目的である『地元貢献』の任務を無事に果たしつつあったカップル+αは、登山道の途中にある史跡で謎の地震に見舞われた。
「足元から?」
 断層もない、火山も無い場所だ。
 古代には火山活動があったと言われている屋島でも、今は只の固い岩盤だ。しかも、多少敏感な者なら感じられるその揺れの方向は、確かに彼等の直ぐ側からだった。


●屋島城跡
 舗装された登山道から離れて、獣道に踏み込んでいった魔皇達は周囲に満ちた雰囲気に呑まれていた。
「静かすぎる‥‥こんな‥‥」
 確かに異質なそれは、人の存在、生命の存在さえも拒絶する様に静寂に満ちた『無』に感じられた。
「あれは?」
「洞窟?」
 人気のない山道から離れる事数百メートル。
 地元教育委員会の名がある通行禁止の立て札の奥に、その黒い穴は奥の見えない深みを彼等に見せていた。
 その中に、今まさに神帝軍とおぼしき装束を纏った者達が入っていく。
 史跡の調査、保護を名目としたビニルシートで被われた場所。風に揺れるビニルシートの音だけが、寒々として魔皇達の耳に染み込んでくる。
「連絡を入れよう。二手に分かれて‥‥」
 少ない見張りを置いて、魔皇達は一旦下がる事にした。

●翡翠で
 現場の魔皇達から連絡を受けた者が走り込んでくる。
「大変だ!」
 謎の動きあり。
 その報告は今の翡翠には充分過ぎる程に緊張をもたらした。仲間達の基地が一カ所、既に神帝軍によって暴かれているのだ。
「応援を出しますか?」
 その答えには『応』。
 手の空いている魔皇達は急ぎ屋島へと向かう事になった。
 改めて屋島に向かう者達に、先に入っていた連絡から必要になりそうな品が渡されたのだが、それは一人4個程だった。それ以上は持ち運びに不便な事と、同じ物ばかりを渡されても意味がないと感じた魔皇達からの意見だったが‥‥。
「何故に、ヘルメット?」
 固定装備(?)として渡された5つ目の装備は、ランプが付いたヘルメットだった。

●再び洞窟前
「えらくまた、装備の充実した‥‥」
 何処かの、脚本があるシリーズ物の冒険者達の様だった。
 見張りとなっていた魔皇達と入れ替わりに、洞窟内に挑む者達。
「カメラマンと照明の後から入るんだっけ‥‥」
 余りにベタなその質問に、魔皇と逢魔の一部は凍り付くしかなかった。


【本文】
●いけいけ! ぼくらは、たんけんたい!
「ついて行かれない‥‥」
 キリア・プレサージ(w3a037)は、ここに来てジェネレーションギャップという物に悩まされていた。
 謎の洞窟探索だというのに、他の者達には緊張感とは程遠い、ピクニックに行く様な気軽さがある様な気がしてつい考え込んでしまう。
 頭を抱えながらシェリルにマッピングを任せて内部に入ると、屋島城(やしまのき)城塞跡は人の頭大の岩を組み上げた城壁である事がよく分かった。
「ピカピカに磨かれた白骨とか、何故か頭から落ちてくるサソリとか毒ヘビ、早く出ないかなー♪ あ、カメラさんってあの辺?」
「やめてよキリカ、はしゃぎ過ぎだってば‥‥照明さんが居ないんだから、カメラの人も居ないよ」
キリカ・アサナギ(w3b902)の何とも言えない響きを伴った呟きに、速攻で突っ込むナナの声が狭い洞窟に響いている。
「しかしまた、古いネタで‥‥3番まで歌えるけど‥‥」
 木月たえ(w3g648)に、どう突っ込んで良いか考えあぐねていたのだが、たえ隣で逢魔のれぅが溜息を吐いているのを見ると、余り深く考えなくて良い様な気がする。
「いつものことか、なーんだ」
 からからと笑って進む源真結夏(w3c473)の背で、荷を背負っている逢魔が肩をすくめているのには誰も気が付かない。
「‥‥」
 流石に、自分の魔皇だけに『同じだ』とは言えない御国だが、彼はふと違和感を感じて立ち止まった。
 彼以外の逢魔達も、互いに顔を見合わせた。
「この感じ‥‥」
「ん? どうしたの、スイ?」
 不安そうに周囲を見渡しているスイに気が付いて、キャンベル・公星(w3b493)が首を傾げている。普段から人に気を遣う子ではあるが、不用意に他者を不安に落とす様な子ではないのがスイだから、こんな任務での急な変化にキャンベルの方が戸惑う程だ。
「二手に分かれているな‥‥こっちも、分かれた方が良さそうだ」
 御山詠ニ(w3f796)が美琴に大丈夫かと言いたげな視線を送ると、彼女は真剣に、しかしほんの僅かにはにかんで答えた。
「ん。それじゃ、ボクとナナ、御山クンと美琴ちゃん、光クン翼ちゃん、刃クン凪さんのチームでどうかな?」
 キリカの提案に、刃を見たキリアが構わないと短く返す。
 が‥‥。
「私、風海様と共に行動したいのです‥‥」
 怖々と、しかしはっきりした意思表示で公星が言うので、結夏と光が変わることになった。
 左右に分かれた道を分かれて暫く行った所で、風海光(w3g199)が上げた声に、キリアが左右に目を走らせて彼の肩を掴んだ。
「どうした? 敵に見つかったらどうするんだ?」
「結夏姉達に、連絡取れないって‥‥」
 しょげかえる光を慰める翼。
「行ぎましょう。先は長いですから‥‥」
 背を護る様にしていたシェリルに促されて、先を急ぐキリア達だった。


●ちょっとまて 役立たずの‥‥
「‥‥これは‥‥」
 赤外線カメラでの撮影を続けるつもりだったキリアだが、分かれて少し先に進んだ所でカメラが止まってしまった。洞窟内の撮影は勿論だが、動作さえしないカメラに首を傾げていると、頭の上にあったランプまでもが消えてしまう。
「やられたわね‥‥」
 シェリルと供にマッピングにいそしんでいたたえが、お手上げと言った表情で肩をすくめて‥‥しかし、魔皇達の視界は闇に沈みはしなかった。
「あれって、どう言うことなんだろ?」
 少し先から、薄い明かりが差している。
 それを指さしていた光に、翼も動かなくなったカメラを片付けて首を傾げている。
「先に進むしかないのでしょうか?」
「無線も駄目となると‥‥進むしかないだろうな」
 小型トランシーバーも無駄となっている。
 恐らく、人の作り出した物は美味く作動しないのだろう。その証拠に、彼等自身の能力だけなら使えそうだった。
「変だと思いませんか? これだけ進んでいて、まだ着かないなんて?」
 たえの言葉に、魔皇達はその歩を止めて考え込んだ。辺りに変な気配はない。
 だが‥‥
「あの、キャニー様、もしかして、ここは‥‥」
 スイが真剣な表情で公星を見つめる。
 その表情が判る程度には、周囲は明るくなってきている。
「何? どうしたの?」
 翼も神妙な趣で居るのに、光は問いかけた。
「ここまで何もぶつからないのは、距離が合いません。ですから、ここは次元そのものが‥‥」
 マッピングをしていた二人だからこそ判る。この通路の長さは不自然すぎるのだと。シェリルが、たえと同じ結論を得たと、その目で頷き合って続けようとした、その時。
「また地震か?」
 小さな揺れが、魔皇達を襲った。
 それは直ぐ足元からの様で、周囲の壁全てからの様で‥‥。
「や、やだ怖いよ! ねぇ、早くあそこに逃げようよ!」
 たえの袖口を握って、必死の表情のれぅ。
 飲み込まれた振動の中で、魔皇達はれぅの指した光のある先へと急ぐのだった。

●謎の洞窟?
 キリア達と分かれたチームは、早々にライト等の電化製品、人の科学で生み出された物が使用不可能になって驚いていた。
「目を離すなよ」
 草薙刃(w3f506)が短く言って、一本道の後ろを凪に見張らせて先へと油断無く進んでゆく。
「で、さっき言いかけてたのは何、御国?」
「もうすぐ判る。いや、多分判るな‥‥」
 結夏の問いに、御国が唸る様に言ったのが伝播したのか、ナナ、美琴、凪達逢魔はその表情を硬くして歩き続けていた。
「‥‥ねぇ、ナナ。どーしてボク達この通路が見えてるの?」
 キリカが恐る恐るナナの表情を覗き込んだ。
 入り口の光もなく、既に人類の文明の利器が止まって久しい。
 それなのに、彼等は歩くのに不自由ない薄明かりの中で、確かに今も歩き続けている。
「まて、あれを見ろ‥‥」
 詠二が前に続く道を指さした。
 そこは、今まで続いた石と土塊の通路が続いている様に見えていたはずなのに、少し行った先からはまるで翡翠の道に似た敷石の並ぶ通路になっている。
「これって‥‥」
 キリカは、ナナの返事を待つ前にはっとなった。
「そうか‥‥」
 朧明蛍を生み出したキリカの呟きに、魔皇達は確信した。
「この地は、翡翠や瑠璃と同じなのか? ‥‥元は俺達魔皇と逢魔の‥‥」
 詠二の呟きが止む前に、激しい振動が彼等を通路に叩き付ける様に唸りをあげた。
 まるで彼等の居る通路が意志を持つ生命体の様に波打ち、うねる。
「ちょ、ちょっとーー!」
 倒れかけた結夏を支える御国。
「美琴、手を離すなよ! 行くぞ、ここに居ては危険だ!」
 美琴の手を取って、走り出す詠二。
 いきなり掴まれた手が痛むのだが、それでも詠二の表情と、今の状態全てが危険を物語っているのは明らかで、美琴も懸命に駆ける。
 彼に倣う様に、ナナを抱きかかえて走るキリカ。ナナの甘い香りも、このような状況下では充分に楽しんでいる暇がない。
「ちょいちょいちょい! もっとロマッチックしたいのにっ!」
 しがみつくナナをそのままに、疾走するキリカ、そして彼女達の直ぐ後ろを互いを庇いながら走る刃と凪。
「‥‥ちっ!」
 舌打ちをしたのは、通路の先にあった光の中に飛び込んだ詠二だった。

●神帝軍の影
「光!?」
「結夏姉?」
 遅れて部屋に飛び込んできたのはキリア達だった。
「もう、大丈夫みたいですよキャニー様」
「そ‥‥そう? こ、この中にグレゴール様がいらっしゃるのでしょうか?」
 息も絶え絶えといった風情の公星。
 スイに言われて、初めて出た余裕の欠片が神帝軍グレゴールの存在というのは皮肉かも知れなかった。
 その直後、最後のたえが部屋に飛び込んで来て、徐々に収まりつつあった振動が目に見えて緩やかになっていき、最後に地響きが遠のいた時、彼等は確かにその目で集った場所を見た。
「ここは‥‥まるで神帝軍のテンプルム‥‥いや、少し違う‥‥」
 キリアがその部屋の造形を目にして呟いた。
 神々しさは感じられない。
 だが、人の作り出した物とは少し異なるその巨大な空間は、目を細めて頭上を見上げても、天井が遙かに高い位置にあることが判るばかりだ。
「こんな場所で攻撃系のDFを使えば‥‥」
 刃が唸る。
 敵を埋める為の攻撃が効いたとしても、この巨大な構造物が崩壊を迎える時には、彼等も少なからず無事には済まされないだろう。
「コウモリも居ない訳よね‥‥これはどう見ても『遺産』みたいだし‥‥」
 誰の『遺産』と、魔皇、逢魔達は尋ねなかった。
 彼等が瑠璃や翡翠、各地の秘密基地に招かれた時のことはよく覚えているからだ。
「古代どころじゃ無いって訳だね‥‥」
 まだしがみついているナナを降ろそうともせずに、キリカはナナの震えてしがみついてくる姿と、柔らかくて甘い感触を楽しんでいた。
 恐がりだなと、微笑んだキリカにナナは‥‥
「怖いです‥‥どうして、誰も居ないんですか‥‥」
「!? いかん、罠か!」
 キリアが今来た道を確認する。

 突然扉が降りて‥‥等と言うことはない。

 ただ静寂が全てを支配していた。

「グレゴール達の姿も、無し?」
「何故だ?」
 詠二と刃が顔を見合わせる。
 先に、確かに神帝軍の何者かがここに入ったはずなのだ。
「何か、ここにありますよ?」
 翼の呼びかけに魔皇達は一面の壁を見つめる。
「読めるのか?」
「少しは‥‥」
 翼と御国が眉根を寄せている。
「マッピングの必要もないし、書いて帰ろうかな?」
 れぅから用紙と筆記用具を受け取って、壁面に描かれている文字を模写してゆくたえ達魔皇の作業が終わったのは、優に一時間を経過していた。その間にも、公星、結夏、キリカ達は巨大な空間の地下空洞を調べて回ったのだが、密閉された巨大空間という事実と、出入り口は彼等が辿り着いた二つの通路のみであると、捜査の手詰まりを再確認するだけに終わっていた。
「これで帰るか‥‥通信できないのでは、何も‥‥?」
 キリアは視線を感じて振り返った。
 だが、サングラス越しには何者も彼の視界には囚われなかった。
「‥‥気のせいか?」
 無事に洞窟を抜けた彼等に、再び違和感が戻った。
「神帝軍は、何処に消えたんだ?」
 刃の呟きに、誰も答えられる者は居なかった。
 そして、彼等は何処かで見たことのある様な‥‥しかし、誰も訪れたことの無かった謎の地下遺跡から無事に脱出するのだった。

●神の名のもとに
「そうか。ご苦労‥‥して、その解読は?」
 御簾の向こう側から衣擦れの音。
「もっか、最重要として‥‥」
「‥‥加えての調査を。屋島城跡‥‥暫く放置しておくように‥‥鍵となる『何か』が見つかるまで‥‥」
 神帝軍の前線となるテンプルム。
 その一隅で、屋島城城塞跡で見つかった謎の碑文、そして魔皇達が見つけた壁面文字の解読が、今まさに行われつつあるのだった‥‥。

【第二話・完】
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