どらごにっくないと

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遙かなる想いを《第3話》

  • 2008-06-30T16:21:47
  • 本田光一MS
【オープニング】
 屋島城城塞跡。
 そこに開かれた洞窟の中で、魔皇達は不思議な空間と、そこに記された文字を発見して帰還した。

 数日を経て、壁面に描かれていた文字は閉ざされた扉を開く為の鍵だと、文字の解読班は判断を下した。
 引き続き文字の解析を急ぐのだが、それでも解読し切れていない箇所があり、魔皇達は先ずは第2の鍵である『セイレーンの鍵』を求めて一路中讃地区へと向かう。


「第1と第3の鍵については、詳しく判り次第調査に向かうそうだ」
 順を追ってというのは判るのだが、神帝軍も動き出した今、時間との勝負であることは魔皇達の誰の目にも明らかだった。

「セイレーンと言えばマーメイド、マーメイドと言えば?」
 謎かけの様な司の言葉に、首を傾げる魔皇達。
 だが、彼等の中から一人が古い話を思い出して、その内容が夢かどうかと調査に向かうことになった。
「金刀比羅宮にある『人魚のミイラ』だって?」
 本物なのか、偽物なのか‥‥

 だが、彼等の向かう琴平方面に、神帝軍の動きも活発になったという情報が得られたのだった。
 借り受けることも難しいが、目的地は人通りの多い場所で、万が一戦闘になった場合を考えると非常に難しい立場に立たされたことを知る。

 神帝軍よりも早く、そして周囲に被害を与えない様に秘密裏に‥‥
 『人魚のミイラ』に辿り着き、鍵を手に入れるのだ。

【本文】
●学生大行進
 ある秋の日。
 何故か香川県の金刀比羅宮には学生が大挙して押し寄せることとなった。

 学生その1。
「Sightseeing(観光)ね」
 金刀比羅宮名物の階段を駆け上る際には国体の強化選手だからと言う、『階段で、なんでやねん』と突っ込みを入れられかねない理由を提示していたキリカ・アサナギ(w3b902)は今度は観光客に早変わりだ。
「マーメイドのミイラを見たいです!」
 日本人、特に田舎の人間は『外国人』というカテゴリーに所属する物に対して恐れを抱いている。主に劣等感に近い物だが、それがキリカには幸いした。
「他にも、今日はあの剥製を見に来られる人が居ましてね‥‥査察官でしたか? 高松の方からわざわざ来られると聞いています、こんな日にねぇ」
「‥‥?」
 査察官という単語にキリカは眉根を寄せた。
 だが、それはよく分からないという風情、それで止めることにする。
 で。
 連れられて入った応接間の様な、待合室の様な場所に学生その2、3、4、5、6はお茶を出されて座っていた。
「‥‥見慣れた5人と‥‥オウッ! 何で、そんな恰好を?」
 何故か、女物の服がよく似合う風海光(w3g199)17歳、ノドボトケ見あたりませんが柔らかいウェーブを描く髪を肩にかけて座っていた。
「ここに、真理の火が見えるからです」
「‥‥あ、そ‥‥」
 微妙に、謎な言葉を吐く翼。
 キリカもそれ以上は返事を出来ないで居た。
 翼の恰好は光と同じフワフワの服装で、一番似合っているのだが、一番この場にそぐわない物でもある。
 更に、足元にスポーツバックの大きな物が謎を深めている気もする。
「ちわっ!」
 源真結夏(w3c473)がしゅたっと手をあげる。おまけに何故か朱袴、巫女装束。
「良く揃うわねぇ‥‥表も大変そうだけど?」
「だ、駄目ですよぉ。そんなこと言っちゃぁ‥‥」
 人魚のミイラと言うことで事前に調査はしてみたものの、位置は判明しなかった為に直談判に移った木月たえ(w3g648)と、彼女に連れられて来たれぅが並んで座っている。
 みーんな、エセ学生。
 そのエセ学生連盟に、加わる様に新たな来訪者が連れられてきた。
「あーセンセだ!」
 れぅが思ったことを素直に出したそのままに、キリアの位置は決まってしまったらしい。
「‥‥‥お早う、諸君」
 苦虫を噛み潰した様な表情をサングラスの下に隠すキリア・プレサージ(w3a037)。
 彼の横では、キリアの内心の葛藤を読みとったシェリルがスーツを身に纏ったクールな姿で溜息を一つ。
「課題の方は、これで大丈夫の様ですね?」
 シェリルを通じてエセ学生達に話す。
 広い意味で、これで皆にも、そして宝物庫の管理者達にも通じるだろう。
 ぼかすことで他者が感じ取る情報量を調整することもキリア位になれば世の常として体験済みだった。

●歴史の舞台に白い影
「あらあら、5つの番傘、5件の飴屋さんって、本当なんですね〜」
「キャニー様? そんな、ガイドブックを手にして‥‥」
 日々、お辛くされてるのですねと溜息が出そうなスイ。
 キャンベル公星(w3b493)の薄い藤桃色の着物は紅葉の始まった金刀比羅宮の境内に良く映えている。
 彼女の横には、常には結夏と共にいるはずの御国がガイドブック片手に何やら難しそうな表情で立っている。
「どうした? 変な顔して」
「いや、気になることがあって‥‥‥」
 須藤明良(w3b343)の問いかけに、言葉を少し濁す御国。
「ふーん?」
 他の人物達から見れば、明良とスイ、御国とキャンベルがカップルに見えなくもない。
 彼等は宝物館に続く表参道で甘湯を出す茶店に陣取って秋を満喫‥‥する観光客のフリが、そのまま本気で満喫していまいそうになっていた。
「ああ、グレゴール様の陰謀の匂いがしますね‥‥」
「いや、それでウットリされても‥‥甘湯が美味しいのかどうかも判らないし‥‥」
 明良はキャンベルの表情を見てそう感じたらしい。
 何となく、彼女のペースに併せられない者、久しぶりの一名追加だった。
「‥‥いいから、見張りを続けよう」
 直接交渉に行った中の結夏に、少しの不安を感じながらも御国にはそう言う以外になかった。

「やばいな。美琴、連絡つきそうか?」
「ええ、少し待って‥‥」
 陸から来るのなら表参道。
 だが、神帝軍が頭上から来るとは魔皇達には想像は出来なかった。
 キャンベル達とは時間をずらして見張りについていた御山詠二(w3f796)が本堂脇の広場に乗り付けたヘリを見つけたのは5分前。
 異変に気付いた美琴と合流して、彼女が連絡を取り合っているナナに携帯で連絡を取り合っているのだが、宝物館まではナナとキャンベル達、。そして詠二も余り変わらない位置にいることが判った。
 足早に動くのは、相手に気付かれる可能性が高くなる。
 あくまで観光に来たデート中の二人‥‥それを演じきれているのか、焦燥感を募らせながら茂みが遮蔽物になる一間出来た次の瞬間に、詠二と美琴は人化したままに階段を走り出した。
「連絡は?」
「任せました。こちらも、一応‥‥」
 相手はコンクリートの壁の中。
 宝物庫に入っている間は、外とは連絡が付かないのだろう。
 走り込んできたのは彼等だけでなく、御国と明良が先に宝物館に飛び込んでゆくのが見えた。
「間に合うのか? 美琴、俺達は囮に!」
「はい!」
 何処まで時間を稼げるか判らない。
 だが、彼等の走ってきた階段に、今正に白い光を纏った者達が降臨しようとしていた。

「スイ、あれはきちんとお渡ししましたね?」
「勿論です! 今頃は、きっと奪還に成功していますわ!」
 奪還ではなく、強奪なのだろう。
 だが、彼等魔皇にとっては『人魚の木乃伊』は謎の扉に関する鍵であり、それは恐らく彼等闇の眷属に繋がる物だ。返して貰うのが筋というものだろう。
「ああ、それにしても‥‥」
 すすと、甘湯を流し込みながら見張りに残されたキャンベルは歴史の重みある風景が西の空に傾き書けた太陽の中に没してゆくのをまんじりともせずに見つめていた。
「炎に、投じられた本能寺の様に‥‥」
 歴史絵巻の中にある光景の様‥‥彼女の感じた漠然とした不安は、轟音となって金刀比羅宮を襲うのだった。

●宝物庫の中
「‥‥すごーい」
「光‥‥ちゃん、棒読み‥‥」
 光が呆然とするのも無理はない。
 そして、彼(女)に結夏が突っ込みを入れることも、また当然だろう。
「気温、湿度管理がオートメーション‥‥外観からは想像できないな」
「ええ、日本の博物館施設にしては、上等の部類に」
 キリアと共に呟くシェリル。
 事前に知識などを得ていたので、シェリルの言動はかなり様になっていた。彼女の言葉に無言で頷くと、キリアはたえとれぅが壁になってカメラから光、翼を隠す行動に移ったのを見て、問題となる『人魚の木乃伊』を注視した。
 世に言われる様に、『人魚の木乃伊』とは上半身を猿、下半身を魚で形作られた、江戸時代の見せ物小屋に多く登場している。
 この博物館に寄贈されている木乃伊も、その中の一つだと御国から聞いていた結夏は学芸員の話にあった『不思議な素材』について考え込んでいた。
「どーしたの、結夏?」
 キリカが薄手のシャツに羽織った上着越しに、ぴったりと結夏の背に張り付いた。
 グラマラスな胸が結夏に押しつけられて、一瞬感動に似たものを覚えた結夏だが、自分はノーマルと慌てて頭を振って真面目な表情に戻った。
「ほら、剥製の接合部分の素材が判らないって、言っていたでしょ?」
「うん、でも、ダミーなんでしょ?」
 キリカには、結夏が何故悩んでいるのか判らなかった。ナナにも話していたのだが、偽物なら本物を見たいと思う。けれど、ここに収められている物が真実『人魚の木乃伊』でないことは判ったのだから、後はこれを無事に翡翠か近くの基地に持ち帰ればよいだけの話なのだ。
「うん、少し気になって‥‥他の部分が判ってるのに、どうしてここだけって‥‥」
「そうそう、だから、こんなこともあろうかと‥‥」
 モゾモゾと、翼のスポーツバックから何やら長い物体を取り出す少女、光。
「『ア・ラ・マ・キ・ジャケー』ピコピコピーン!」
「‥‥おー」
「うわぁ! すごいすごーーーい」
 何処かの、青い色をした猫型ロボットの口調でキャンベルから託された人魚の木乃伊とすり替える為のダミーアイテム、新巻鮭を捕りだした光に、投げやりな拍手を返すたえ、本気で喜んでいるらしいれぅ。
「quiet(静かに)」
 キリアが左右に視線を走らせる。
 カメラらしき物からは死角になっているが、余り長居はしていられない。
 学芸員達が用で席を外したのだが、一瞬しか時間はないだろうと彼は踏んでいた。
 貴重なその時間を、有効に使わないといけないのだ。

「では、これで」
 すりも真っ青。
 流石にスカートの中に干涸らびた剥製を入れる気にはならないたえだが、翼の持っていたスポーツバックを代わりに持ってやることで巧く誤魔化していた。
「館長さんに挨拶してきますから、その間に皆さんは‥‥」
 シェリルと共に伝を勤めようと歩き出した瞬間に、キリアの耳に堅い足音、それも慌てて走り込んでくる音が響いた。
「結夏! 急いで移動しろ! 相手はヘリできたんだ!」
「御国?」
 目を丸くした次の瞬間に、結夏とキリカは走り出していた。
「シェリル、皆を誘導して先に行け」
「はい」
 何かをしようというのだ、それを察したシェリルは手首の時計に視線を落として制限時間を自分の中においた。
「急ごうぜ! 詠二が時間を稼いでくれそうだけど‥‥」
 明良が神帝軍の来る方角とは逆だと、表参道に向かう道を示した。
「お急ぎ下さい。そろそろ、あの白い装束の方々が来られますよ」
「うわ、のんびり‥‥」
 足早に金刀比羅宮を去ろうとする魔皇達を先に送るように、飴屋の側で紅葉の風流に身を置いていたキャンベル。
 その様子に、魔皇達を先導してきたナナが目を丸くしている。
「あらあら、本当に一卵性双生児のように‥‥お似合いですわよ」
「はい!」
「えう‥‥」
 それぞれに、反応の異なる翼と光。
 照れた光の背に、黒煙と空気を叩く振動、衝撃、そして轟音が魔皇達に襲いかかった。
「な?!」
 キリア達‥‥詠二と美琴、御国、そしてキリアもそこにいるのだろう宝物庫が吹き飛んでいた。

●陰謀
「無茶苦茶しやがるぜ」
「君もな」
 美琴の震える肩を抱いて支えてやりながら、呟いた詠二にキリアも呟いた。
 とっさに、何者かが逃げたという誤情報を流したのは良かったが、その後の神帝軍の行動は彼等の常識を逸していた。
 先に奥に入っていたらしい学芸員達が出てくる暇も与えられずに扉が閉ざされ、爆炎が博物館の建物を吹き飛ばしたのだ。
 DFによってなのか、それとも彼等の装備の賜物なのか、怪我一つ無く炎から現れた白き御遣い達の放った一言は、炎に曝される人々の耳に深く深く染み込んでゆく。
『闇の者が逃亡を図ったぞ!』
『宝物を奪って逃走した! 見つけ次第、我等に連絡を!』
「くそっ! こいつら‥‥」
 明良が躍り出ていきそうになるのを押しとどめて、御国とキリアは一時撤退を進めた。
「詠二、屋島に行くと言っていたな。明良も連れて行って、気分転換してきてくれ」
「あんた達は?」
 コートを直しながらのキリアに、詠二は美琴の様子を確認しながら尋ねた。
「一旦、翡翠に戻ろう。アレは、確かに魔に属するモノだ‥‥それが何であるか、現代の科学では証明出来なかったようだが‥‥」
 御国の言うとおりだと、無言で首肯したキリアに、毒気を抜かれたような表情で明良が苦笑した。
「それじゃ、二人には悪いけど、お〜邪魔」
「いえ、そんな‥‥」
 照れる美琴を連れて、詠二は移動する為に長い石段を歩き始めた。

『エレガントではない‥‥だが、手段を選ばないのは彼等も同じか‥‥』
 高松市上空にあるテンプルムで、グレゴールは提出された報告書と四国、九州の現状を比較しながら呟いていた。
 屋島に派遣した部隊が発見した謎の空間、それは魔の族に組みする物だという想像は付いている。その鍵となるのは、琴平での魔皇達の行動が示してくれた。
『県下に残る史跡、歴史物、全てを調査して報告せよ。おとぎ話でも構わない、闇に組みする者達に、一片の機会も与える気はない‥‥』
 グレゴールの命がテンプルムで実行に移された。
 神帝軍の動きは、いずれ魔皇達が無事に奪還した人魚の木乃伊に関わるものだとは、神帝軍も魔皇達にも、そして命を発したグレゴールでさえも、その時は気が付かないでいた。

【第三話・完】
COPYRIGHT © 2008-2024 本田光一MS. ALL RIGHTS RESERVED.
この小説は株式会社テラネッツが運営する『WT03アクスディア 〜神魔戦記〜/流伝の泉』で作成されたものです。
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