どらごにっくないと

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Mission! 勉強嫌いを克服せよ

  • 2008-08-11T00:55:14
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
 5月が終わると、そろそろ夏の気配が周囲に漂い始める。
 夏は、学生にとっても楽しい時期だ。これから訪れる季節への期待で、気もそぞろ、勉強どころではなくなってくる。
 神魔共学のトリニティカレッジの学生達も、それは例外ではない。
 だがしかし。
「さて、話を聞こうか」
 大天使リューヤの前で項垂れて座っているのは、この春、トリニティカレッジに編入したグレゴール、アリアだ。
「あ、あの‥‥、リューヤ様、アリアも久しぶりの学校できっと‥‥」
「君は黙っていたまえ。私はアリアに聞いている」
 グレゴールを庇うファンタズマの言葉を遮って、リューヤはアリアを見下ろした。
「アリア、テストがあるなんて聞いてなかったもん」
 大仰に、リューヤはため息をついた。
 正座しているアリアの前に置かれた紙を取り上げ、もう1度ため息をつく。今度は、先ほどよりも深く。
 薄く細長い紙には、赤い数字が並んでいた。
「学生にテストがあるのは当然の事だろう。これは、勉強をしなかったアリアが悪い」
 だってと頬を膨らませたアリアをじろりと睨んで黙らせると、リューヤは続ける。
「アンデレ様は、より多くの友達を作る為とおっしゃったが、学生の本分である勉強を疎かにしてもいいというわけではない」
 数学15点、化学20点、世界史12点、英語は少しだけよくて28点、そして、とどめが国語の2点だ。
 大天使がため息をつきたくなる気持ちもよく分かる。
 当のグレゴールはと言えば「英語は簡単すぎて解く気がしなかった」とか「日本語は難しいんだもん」と口の中でぶつぶつ文句を並べている。
 こめかみを押さえて、リューヤは宣告を下した。
「2週間後、私が作った問題で追試を行う。1教科でも赤点があれば、2週間後にもう1度試験をする。2度目に50点以下が1つでもあった場合は、もう2週間後だ。夏休みまでに追試をクリアしなければ、お小遣いカット、夏休み返上で毎日補習。試験は回数を追うごとに難しくなり、合格基準点も高くなる」
 合格基準点が低いうちにクリアしないと、蟻地獄が如き「エンドレス追試」に陥り、夏休みもお小遣いも無くなるというわけだ。
「ひどいッッ!! パパ横暴!! 教育パパーッッ!!」
 抗議の声をあげたアリアに、リューヤは涼しい顔で頷く。
「その通り。私は一応は教育に携わる者だ」
 寒い‥‥が、今はそれどころではない。
 アリア大事のグレゴールは、事の成り行きに青ざめた。
 甘やかし放題だったせいか、アリアには我慢が足りない。机の前に大人しく座っているなんて出来ないし、大嫌いな勉強を進んでするとは思えない。
「でも、このままではアリアの夏休みが‥‥」
 トリニティ・カレッジに入って最初の夏休みを、アリアが楽しみにしていた事を彼女は知っていた。
−どうか‥‥どうか、アリアを助けて‥‥!
 彼女が逢魔ならば、その祈りは流伝の泉に届いたろうに。
 しかし彼女はファンタズマ。傍らには魂の絆で結ばれたグレゴールが危機に直面している。立ちはだかる敵は、大天使リューヤ。
 きゅっと唇を噛み締めて、彼女はおもむろにポケットから携帯を取り出した。
「もしもし? 突然で申し訳ないのですけれど、アリアと一緒にお勉強して下さいませんか? ええ、そうです。アリアったらお勉強が嫌いなもので‥‥。あなたがご一緒してくださると、少しは真面目に取り組むかもしれませんし。よろしくお願い致しますね、魔皇様」



【本文】
●迷子発見
 グレゴールの少女、アリアが暮らすのは、とあるマンションの最上階だ。
 そのマンションの屋上、貯水タンクの陰で蹲る少女に気付いて、真竜寺一はやれやれと息を吐き出した。
「おい、そんな所で何をしてる」
 びくりと震えた影が、恐る恐る振り向く。
「‥‥逃げるのは構わんが、その後に受けるペナルティーに対しての認識が甘いな」
 少々威圧的に言い放つと、彼は軽い体を猫の子でも拾うようにひょいと摘み上げた。
「今、勉強から逃げて、夏休みの楽しみまで逃がしてしまうのは勿体ないとは思わんか。それでもいいなら逃げればいい。嫌なら見返してやれ」
 最初こそ暴れたものの、彼の言葉に思う所があったのだろう。大人しくなったグレゴールの少女を幼子のように抱えると、一は居住フロアへと続く階段を下りて行った。

●飴とムチ
 マンションのやたらと広いキッチンで、御神楽永遠はアリアのファンタズマ、フェリシアと共にお菓子作りに専念していた。
「和菓子がお好きとは思いませんでした」
 鍋に入れた葛をゆっくり丁寧に溶かしながら、永遠がくすりと小さく笑う。練りきりを作っていたフェリシアはは手を止めると、困ったような笑みを永遠に向けた。
「以前は洋菓子が好きだったのですけれど、いつの間にか‥‥。これもアンデレ様の影響かと存じます」
 納得してしまう自分自身に苦笑して、永遠は手元に視線を戻した。
「まだ中学生なのに、縁側で渋いお茶と和菓子を頂くのが日課になってしまって」
「和菓子は私も好きですよ。なんだか優しい味がすると‥‥、どうかされましたか?」
 溜息をつくフェリシアにフォローとも慰めともつかない言葉を掛けようとして、永遠はキッチンの扉をコツンと叩く音に振り返る。
 そこに、速水連夜がいた。
 この時間、彼は、勉強に対して食わず嫌いの傾向があるアリアに、適度な手の抜き方や山勘の当て方等、気楽な勉強法を教えているはずだ。
「アリア‥‥こっちに来ていないか」
 思いも寄らぬ言葉に、永遠とフェリシアは顔を見合わせる。苦り切った連夜の表情から察するに、講義の途中でアリアが消えたようだ。
「どっこらしょ、あー、なんだね、エレベーターってのは便利だけど、あたしゃいつまで経っても慣れやしないよ。あ、マリちゃんや、それは机の上だよ。天舞の親父、ジュースはちゃんと洗ってから冷蔵庫に入れとくれ!」
 そんな所に騒々しく戻って来たのは、買い出しに出ていた山田ヨネだ。
「あ、永遠ちゃんや、天舞の親父を借りてたよ、マリちゃんが重いものを持てないからねぇ」
「え、ええ、はい、それは‥‥天舞にも買い出しを頼んでいましたから‥‥ところで」
 永遠はガサガサとスーパーの袋を開けているヨネに尋ねた。
「アリアちゃん、いなくなったみたいなのですけれど、ご存知ありませんか?」
 余分に1枚ひっつけて来たビニール袋を切り離すヨネの動きが止まった。マーリの手元から色とりどりのキャンディが零れ落ちる。
「いなくなった?」
「いなくなったんだ。ちょっと目を離した隙に、な。今、影月とロボ、ルーが探している」
 ロボロフスキー・公星が持ち込んだ学習ゲームソフトをアリアのパソコンにインストールしている隙に、彼女の姿が忽然と消えたという。
「やれやれ、困ったもんだねぇ。‥‥ところで天舞の親父、冷蔵庫を開けっ放しにするんじゃないよ! 電気代が無駄だし、中のモンが傷むだろ!」
「あ、ああっ! これは失礼」
 慌ててペットボトルを冷蔵庫に仕舞うと、天舞は主たる永遠に伺いを立てた。
「もしや、建物の外にお出になったのでは? 拙者、探して参ります故、姫は‥‥」
「いいえ、天舞。建物の外に出たのならば‥‥」
 永遠の言葉が終わらぬうちに、1人巨漢が姿を現した。彼の腕には、金色の髪の天使が抱かれている。
「アリア!」
 慌てて駆け寄ったフェリシアに、巨漢‥‥一は、アリアの金髪を撫でて、安心させるように告げた。
「大丈夫だ、もう、アリアは逃げない。夏休みの為にな」

●強制されるものではなく
「同じ1つの対象であっても、その物に対する理解は、人によって異なる。自分が理解しているものを、他人に教えるのは難しい。例えるなら、パソコンのマニュアルが、パソコン知識のある者には理解出来ても、一般的に難解な代物と呼ばれているように。だが、万人が理解出来るレベルに合わせて‥‥」
 流れるような連夜の説明に、アリアの頭がぐらぐらと揺れる。
 この段階で、既にアリアの理解出来るレベルを越えているようだ。
「グレゴールになった時から、学校に行っていなかったそうよ」
「勿体ないねぇ。勉強なんざ、学生じゃなくなってから「もっとやっときゃよかった」って思うもんだ」
 小声で喋るロボとヨネに軽く咳払いをして、連夜はアリアの頭をぽんと軽く叩いた。
「要は、興味をもったものから世界は広がり、それが勉強に繋がっていくって事だ。アリアは何に興味がある? 何でもいいんだ。例えば‥‥そうだな、歴史とか」
 連夜の言葉に、彼の逢魔の影月が一抱えもある壺を机の上にどんと置いた。その衝撃で倒れかけたコップをロボの逢魔、ルーが死守する。
「これなどはいかがでしょう? 艶といい焼き方といい、丁寧な良い仕事をしておりますな。この時代の作品は、わたくしめも大変好きでして」
 指で2度、3度と壺を叩き、影月はうっとりと溜息を零す。
「いやあ、本当に良い仕事で‥‥」
「良い仕事はいいんだがな。‥‥これはどこから持って来た」
 妙に低くなった主の声に頓着せず、影月はにこやかに答えた。
「こちらの廊下に飾られておりました物で」
 言いながらも、影月の指は愛おしそうに壺を撫でている。よほど、気に入ったらしい。連夜は額を押さえた。この家に飾られていた年代物の壺、それはつまり、歴史、特に、この日本の歴史を深く研究している某大天使の収集品である可能性が極めて高い。
「‥‥問題になる前に返して来‥‥!!!」
 連夜の言葉と重なるように、影月がなぞった壺の口がぽろりと欠けて落ちる。声を失い、固まった連夜と影月を気の毒そうに見て、ロボはアリアの注意を自分へと向けた。
「さ、アリアちゃん。これは楽しみながらお勉強する為のソフトなの。見てて」
 エンターキーを押すと、軽快な音楽と共に画面に2人のキャラクターが現れた。1人は金髪の少女、もう1人は銀髪の少年だ。仲良く手を繋いだ2人に、ルーが主を振り仰ぐ。
 そんな逢魔にばちんと片目を瞑って、ロボはソフトの説明を続けた。
「いい? これから、2人で強大な敵を倒すの。問題に正解すると、敵にダメージを与え、力を殺ぐ事が出来るのよ」
 現れた悪の首領に、画面を覗き込んでいた者達は絶句した。
 あろう事か、悪の首領、倒すべき敵は大天使リューヤだったのだ。
「ひょえ〜‥‥似てる〜‥‥」
「ナンマンダブナンマンダブ‥‥」
 思わず呟いた逢坂薫子の隣で、念仏を唱えるヨネ。
 これを見たリューヤの反応が、彼女達には容易に想像出来た。
「これ、お勉強?」
 画面に並んだ問題を見た途端、不信な表情を向けて来る少女に大きく頷いて肯定を返す。連夜も言った通り、興味を持つ事で理解へと繋がる道が出来る。一般的な問題集を解くのは、その道を繋げてからでも遅くはない。
「そう。お勉強よ。生活の中にも、たくさんのお勉強の素はあるの。例えば、お買い物に行った時、計算が出来なければ困るわよね? 幾らの物を幾つ買ったのか。消費税込みのお値段だと端数も出るわ。計算が出来なければ、お釣りを間違えられても分からないでしょ?」
 うん、とアリアは素直に画面に向かった。
「よし、これなら、わたしにも教えてやれそだな!」
 逢魔へと差し出した薫子の手の上に、千代丸は恭しく黒と白を基調とした布の固まりを置く。魔操の籠手よろしく、それに手を差し込むと、薫子は意気揚々とそれを掲げる。
「さァー、行ってみようか、チヨくん!」
 その時、リビングに落ちた沈黙を何と表現すればよいのだろうか。あんぐりと口を開けた子供達と仲間の視線に、薫子はにぃと笑った。
「次の問題、漢字を□に入れて四字熟語を完成させよ! □肉□食!」
「これは簡単でゴザイますな、魔嬢様。たまに、焼肉定食などとボケをかます者もおりますが」
 尋ねて、答える。
 千代丸の口調を真似た薫子の見事な腹話術だ。
「弱肉強食! これっきゃないない!」
 黙って、ロボは薫子の言葉通り、画面に文字を打ち込んだ。
 自信満々に反っくり返っていた薫子とチヨくんは、鳴り響いた耳障りな音に目を剥いた。
「なんで!?」
「答え、焼肉定食。たまには物事を柔軟に考える事も必要と思われます‥‥だそうよ」
 画面の中のリューヤが高笑いしている。
 オノレ、リューヤ‥‥。
 このまま大人しく引き下がるなんて出来ない!
 袖を捲り上げて、薫子はアリアを押し退け、画面の大天使と向かい合った。

●恋人達の
「賑やかだな」
 リビングから聞こえて来る歓声に、一は肩を竦めた。笑い声だけではなく、囃し立てたり、歌ったりと、随分騒がしい。
「勉強会と言うよりも、宴会だ」
 そんな一に、小さく丸めた餡を皿に並べ終えた永遠がくすりと笑う。
「楽しんで勉強出来るなら何よりですね。一さんの勝負はつきましたの?」
 いや、と言葉を濁す。
 時間潰しにと、天舞を相手に持ち込んだマグネット将棋を始めたのはいいのだが、何やら気まずくて勝負の途中で抜け出して来てしまった。
 沈黙は苦痛ではない。
 だが、天舞の沈黙は妙に居心地が悪い。
「やはり、まだ‥‥」
「はい?」
 振り返る動きに合わせ、黒髪が頬に流れる。いつもの仕草で髪を押さえた永遠に、一はゆっくりと歩み寄った。
「永遠、手」
 やんわりと永遠の手を掴むと、白い頬についた餡を唇で舐め取る。瞬間、項まで朱に染まった永遠と、目元を和らげる一と。
 幸せな恋人達の光景だ。
 ‥‥なのだが。
 派手に何かが壊れる音がした。
 視線を動かすと、顔を真っ赤にして硬直しているルーの姿がある。その足下には、転がった盆と砕けた陶器が。
 自分に向けられた2人の視線に、ルーは我に返った。あわあわと慌てながら、周囲を見回したかと思うと、ぺこり勢いよく頭を下げる。
「すっ、すみません、ごめんなさいです!」
 スリッパが騒々しい音を立てるのも構わず、彼は驚いた表情の永遠と一を残してキッチンから走り去った。
 ルーもルーなりに、この勉強会に淡い期待を抱いていたのだ。落ちた消しゴムを拾おうとして、おでことおでこがこつん‥‥て事になったらいいなァ、とか。想像して1人で頬を赤らめてみたり。
 けれど、それを上回るシチュエーションを目の当たりにして、彼はすっかり動転したまま、主達のいるリビングへと逃げ込んだ。
 大きく息をついた彼の目に飛び込んで来たのは、千代丸からカリグラフィーのような文字を教わっているアリアの姿。
 静まりかけた心臓が一気に跳ねる。
 今日は、アリアの顔をまともに見られそうになかった。
「まだまだ若いねぇ」
 幼い逢魔が何に動揺しているのか察したのはヨネ。マーリが買って来た菓子をつまみながら、溜息を吐く。手元にあるストップウォッチは、休憩までの時間を計っていたものだが、もはや用をなさない。
「‥‥先は長そうだわぁ」
 時間を刻む数字を止めたヨネに応ずるように、ロボも呟きを漏らす。
 その言葉が指すのは試験勉強か、それとも‥‥。

●試験の結果
 苦虫を噛み潰したような顔の大天使の前で、アリアはふて腐れた顔で正座していた。
「アリア、一生懸命お勉強したもん」
 見るからに不機嫌そうなリューヤを宥めようと、永遠がアリアの援護を試みる。
「アリアちゃん、本当に一生懸命お勉強してましたよ。私達が証人です」
 ちらりと永遠を一瞥し、リューヤは無言のまま1枚の紙を取り出した。
「君は、よく頑張ったようだな」
 それは、ルーの試験結果だ。
 見守っていたロボが、ほっと息を吐き出す。やはり彼も、赤点を取った逢魔の追試結果が気になっていたようだ。
「だが、アリア」
 もう1枚の紙をアリアの前に置く。
 覗き込んだ魔皇達から落胆の声が漏れた。見事に並んだ赤い点数。せめてもの救いは世界史の点数が28点に上がった事ぐらいか。後は、どれも前回と似たりよったりの点数だ。
「アリア、一生懸命やったもん」
「‥‥果物を買いに行きました。1個150円のりんごと100円のみかんとを合計で1150円分買いました。さて、りんごを何個買ったのでしょう。‥‥で、なぜ端数がつく!」
 リューヤを取りなそうと伸ばされたヨネの手がぱたりと落ちた。
 連夜は咳き込み、永遠は立ちくらみを起こしたかのようにふらつき、そんな永遠を一が支える。
「アリアは中学生だな?」
 思わず確認してしまった連夜に他意はない。世界史は彼女が興味を示すままに語って聞かせたが、おかしな所はなかった‥‥と思う。
 しかし、これは数学と言えるのか?
「チヨくん、答えはいくつ?」
 執事ひげを蓄えた指人形が薫子の問いに頭を抱えた。
「え〜とえ〜と難しいでゴザイマスヨ、魔嬢様ア」
「答えは5つ! それぐらい計算しろよな!」
 怒鳴りつけて、薫子は人形の千代丸をアリアの目の前に差し出す。
「アリアちゃんは、どう考えたでゴザイマスカ?」
「だって、合計で1150円だもん。お買い物の計算をする時、おつりを間違えないように消費税もちゃんと計算しなくちゃ駄目ってロボが言ったもん!」
 皆の視線がロボに集まる。
「え? ‥‥やだ、なに?」
 たらりと、ロボのこめかみを冷や汗が伝う。
「国語、作文問題。文字が解読不能」
 出された答案に、今度は千代丸が青くなる。
 アリアに教えた装飾のひげ文字と花文字がそのまま回答の上に踊っている。しかも、内容はどうみても彼の作った即席ポエムだ。
「だって、由緒正しく格調高い文学だって千代くんが言ったもん!」
「‥‥ジジィ‥‥」
 ぱきり、と薫子の指が鳴った。
「ついでに、活用形の最後に「いぇーい」とあるのは何かね?」
 千代丸を相手に凄んでいた薫子が凍り付く。それわ、間違いなく薫子直伝、ラップ調活用形の名残‥‥。
「あー、先生様? 皆、アリアちゃんに楽しく勉強して貰おうと思っての事ですよ、先生様も分かっておいででは?」
 ヨネの声がいつになく生彩を欠いているのは、アリアを飽きさせない勉強法が裏目に出てしまったからか。まさか、アリアがそのまま解答するとは、誰も思ってもいなかったのだ。
「アリア、再追試。次に私が戻るまでに、もう1度、『基礎から』勉強し直しておきなさい」
 どきっぱり言い切ったリューヤに、アリアが半ベソをかく。
 全面バックアップした魔皇達も、泣きたい気分を味わった、梅雨入り間際の蒸し暑い夕方の事であった。
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『神魔創世記 アクスディアEXceed/アクスディアEX・トリニティカレッジ』で作成されたものです。
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