どらごにっくないと

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【京都】壊された平安

  • 2008-08-11T01:02:17
  • 桜紫苑MS
【オープニング】
●始まり
 幾つもの小さな透明な欠片が、キラキラと朝日を反射していた。
 それはルチルと呼ばれる特殊な水晶だ。
 ここ、旧京都府を取り囲むように設置されているのは、新東京で用いられているルチルの試作品である。
 試作品とはいえ、京都のルチルは、十分にその役目を果たしている。寺社仏閣に捧げられる人々の祈りを吸い上げる事で感情搾取は最低限に抑えられ、絶対不可侵領域は拡張して魔に属する者の凶暴なる衝動を封じ込め、神魔と人は古き都で比較的穏やかな時間を共に過ごしていた。
 ルチルは、今や京都にとって無くてはならぬもの。千年の昔から人々を護って来た土地神のように、道端のお地蔵さんのように、年寄りと幼い子供がルチルに手を合わせる。京都の日常の光景である。
 そのルチルが、無惨にも砕け散って湿った土の上で光の粒と化していた。その輝きは、ベルベットの上に転がった宝石に似ている。
 美しくて、哀しい。
 そっと拾い集めた欠片をハンカチで丁寧に包むと、月見里葵は深く溜息をついた。
 砕けたルチルは、ただの水晶だ。
 透明な輝きは変わらないが、何かが、とても大切な何かが消えてしまった。
「他にも何カ所か、同様にルチルが砕かれていました」
 難しい顔をした男の言葉に、葵は頷く。
 神帝軍の設置したルチルを砕くなど、人に出来る事ではない。
 魔に属する者にとっても、簡単な事ではない。
 神に属する者に至っては、自分達の作り出したシステムを破壊する意味がない。
「神魔も、人も、ルチルを砕く必要はありません。ですが、それは同時に神魔、人、等しく容疑があるとも取れます」
 消去法では、全ての犯人像が消えていく。犯人が存在するのならば、リストから消えた者達の中にいるはずだ。
 きゅっと唇を噛んで、葵は立ち上がった。

●やって来た男
「ルチルが砕かれたのは、北地区に固まっています」
「境界線となるルチルね」
 ルチルは、京都の寺社仏閣、史跡等に設置されている。幾重にも重ねられた結界と言ってもいいだろう。
 今回、砕かれたのはその一番外側に設置されていたルチルだ。
「外部からの犯行でしょうか」
「そうとも限らないわ」
 山門へと続く階段を降りながら、葵は考え込んだ。
 情報が少なすぎる。
 ルチルは、ほぼ均等に四散していた。どちらからの衝撃を受けて砕けたのか、詳しい事はGDHPの鑑識結果が出ないと分からないが、見た限りでは、中から爆発したようだった。
「‥‥応援は、要請したのでしょう?」
 はい、と男はハンカチで額の汗を拭いつつ、律儀に答えた。
「手が足りませんので、カウボーイに来て貰う事にしました。到着後は、周辺の聞き込みに回って貰えるように頼むつもりです」
 やたらと男は腰が低い。
 一応はGDHPの刑事で、グレゴールだ。もう少し、神々しいオーラを発していてもよいと思うのだが、生来の気質なのだろう。協力者に過ぎない葵にもペコペコと頭を下げてばかりいる。
 もっとも、葵は京都メガテンプルムの総司令官たる権天使、アンデレから委任された者。平グレゴール刑事からしてみると上司に等しいのかもしれない。
ー‥‥委任って言っても、「留守をお願いしますねぇ」だけなんだけど。
 正式に辞令を受けたわけではないが、メガテンプルムの大天使、リューヤも認めている。再建途中の翠月茶寮は、相変わらず魔皇達の溜まり場だし、神帝軍にも魔皇にも話を通しやすい立場にいる事は間違いないのだから。
「それで、ですね」
 男の声に、葵は慌てて意識を外に向けた。
 単調な声の調子から察するに、男は葵が他の事を考えていたと気付いていないようだ。刑事にしては些か注意力が足りない気がする。
「この件の指揮を執る者が、そろそろ参るはずなのですが」
「指揮?」
 鸚鵡返しに尋ねると、男はあっさりと肯定して葵に笑いかけた。
「ルチルが破壊されるという重大事件ですから」
 なるほどと納得しかけた葵は、静かな山門の前に派手なブレーキ音を響かせて停まった車を見て声を失った。
 真っ赤なフェラーリから颯爽と降り立ったのは、サングラスの男。
 まるで、どこかの刑事ドラマのワンシーンである。
 ずきずきと痛み出した頭を押さえた葵の隣で、グレゴール刑事が敬礼をする。
「やあ、ご苦労様」
 美声だ。
 ふわりと香ったのは、某高級ブランドの香水。
「月見里さん、こちらが本件の指揮を執るマティアスさんです」
 嫌々ながらに顔をあげた葵に、サングラスを外した男が微笑んで手を差し出す。
「初めまして。これからよろしく頼むよ、お嬢さん」
 葵は、何とか取り繕った笑顔を返した。


【本文】
●探偵事務所
 紙の束を机の上に投げ出し、背もたれに深く体を預けると、速水連夜は薄く笑みを浮かべた。ぎぃと椅子が軋む。
 乱暴に投げ出された紙には、GDHPの文字が見え隠れしていた。
「この手の事件は、動機と切っ掛けを見つけ出すのが重要だ。正しい情報さえあれば、現場に行かずとも解決出来る」
 ブラインドから差し込んで来る太陽に目を細め、彼は冷めたコーヒーへと手を伸ばした。
 あの日、壊滅的打撃を受けた翠月茶寮も以前の姿を取り戻しつつある。連夜の部屋も元の通りに。何故だか知らないが人外魔境も。
 コーヒーのほろ苦さを一頻り味わった連夜の笑みが、自嘲めいたものへと変わる。
「だが如何せん‥‥」
 呟きかけると同時に、携帯が鳴った。確かめずとも相手は分かっていた。
「‥‥そうか。鑑識の結果が出たか。分かった。すぐに行く」
 雑用係として本部に詰めている逢魔、影月のお陰で、捜査本部の動きは、逐一、連夜に伝えられる。尤も、有用な情報よりも、お茶菓子をケチっているとか、捜査員が屋上で並んで煙草を吸っていたとか、どうでもよい情報の方が圧倒的に多かったが。
「情報さえ揃えば、後はどうとでもなるさ」
 掛けてあった黒のコートを手に取ると、連夜はそのポケットに携帯と手帳をねじ込んだ。

●捜査本部
 空調の効いた室内に流れているのは「浄夜」。それが、今や京都を代表する楽団となった平安フィルの演奏である。
「‥‥本当に、ここは捜査本部なのでしょうか」
 CDケースを手に、御神楽永遠は溜息をついた。
 彼女がそう思うのも無理はない。
 刑事ドラマのような、散乱する書類や雑然とした会議室、書き殴られたホワイトボード‥‥を期待していたわけではないが、それでもやはり重大事件の捜査本部という感じではない。
「捜査員の皆様も大変そうですわね」
 永遠の呟きに同意して、キャンベル・公星も額を押さえる。
 整然と並べられた重厚なデスク、皮貼りの椅子には、間違っても煙草の火なんぞ落とせない。くわえて、その匂いが髪や服に移る事を本部長が好まない為、強制されたわけでもないのに、捜査本部は完全禁煙ルームと化していた。
「ま、マリちゃんにゃ丁度いいさね!」
 特徴ある笑い声を響かせた山田ヨネの背後で、大きなお腹を抱えた逢魔のマーリが捜査員に向かってぺこぺこと頭を下げる。
「なんかさー、調子狂うよねー。本部長ってさ、何をしなくちゃいけないのか分かってないんじゃないかなァ」
「分かっているつもりだよ、一応‥‥ね」
 デスクに頬杖をついていた逢坂薫子は、次の瞬間、あまりお上品ではない悲鳴と共に飛び上った。噂をすれば影がさす。その「本部長」が彼女の肩に手を置き、耳元で囁きかけたのだ。
「なななななななにっっ!?」
 壁際まで飛び退った薫子に、本部長マティアスはくすりと笑って緩やかなウェーブのついた髪を掻き上げた。
「でもね、捜査本部が煙草の灰や汗くさい刑事達の熱気に満ちていなければならないってわけではないし、やはり、快適な環境で仕事が出来る方がよくはないかい?」
「そそそそそりゃそーだけどぉ」
 どきどきばくばく派手に打ち鳴らされる心臓を宥め、なるべくマティアスと距離を置くルートを通って、薫子はそろりそろりと壁伝いに仲間達の所へと戻る。
「それで」
 薫子が自分の逢魔スイに保護されたのを確認して、キャニーは相手を促す言葉を発した。
「それで、何かお分かりになりまして?」
「ん?」
 ああ、と椅子に腰をおろした男は、手の中の書類にちらりと視線を向ける。
「ルチルが砕かれたのは、京都の現状を快く思わない者がいるという事です。それが魔属であれ神属であれ、早急に捕らえてその真意を問い質さねばなりません」
 勢い込んで身を乗り出した永遠の、さらりと流れた黒髪を一筋手に取ると、マティアスは彼女の目を覗き込んだ。
「その通りだよ、お嬢さん。誰が、何の為に京都の平安を乱すのか。我々もそれを知りたいと思っている‥‥」
 傍から見れば、熱烈に見つめ合う恋人のようだ。
「‥‥天舞の親父が外回りに出ていてよかったよ」
 思わず呟いたヨネに、マーリははたと気付いた。
 今、ここに主達を守れそうな男はいない。先ほどまで影月がいたが、今はどこかへ消えている。天舞だけではなく、千代丸も外回りだ。
 捜査員は数名いたが、頼りにならなさそうだ。
−‥‥は、速水様、お早く!
 マーリの心の叫びにも焦りにも気付く事なく、永遠はマティアスの指に絡められた髪を奪い返しすと、差し出された地図を食い入るように見つめた。
「青の点がルチルが設置されている場所、赤が壊された場所だよ」
 青い点が連なって京都を囲む中、大原周辺の数カ所だけが赤くなっている。全体からすると、壁に錐で穴を開けた程度の損害かもしれない。だが、小さな綻びから全てが崩壊する事も有り得るのだ。
「ルチルが破壊された順番や、詳しい時間などは分かっているのですか?」
 赤で記された場所を指で押さえて尋ねた永遠に、男は首を振る。
「夜中の犯行らしいって事ぐらいだね。発見されたのは早朝、参拝客が訪れる以前だ」
「ルチルって、そんなに簡単に壊せるものなの?」
 黙って資料に目を通していた少女がふいに顔を上げて尋ねた。
 かつて、神威トトの逢魔であったリジェーナだ。彼女の魔皇であるトトはギガテンプルムで消息を絶ち、今もその行方は杳としてしれない。
「強度の事を言っているならば、普通の水晶と変わらない」
 意外な言葉に、集った者達は顔を見合わせた。
「だが、実際はそう簡単には砕けないだろうね。これは、京都神帝軍が持てる力の全てを結集して作り出したものだよ」
 どこか面白がっているようなマティスに、リジェは口元を引き上げる。
「京都神帝軍が、ね。例えば、製造時点で破壊要因が組み込まれていた可能性は?」
「それは!」
 予期せぬリジェの言葉に、キャニーは思わず会話に割って入った。
「確かに京都のルチルは新東京のルチルに比べて完成度は低いかもしれません。何らかの要因が重なって砕けてしまう可能性は0ではないでしょう。ですが!」
「故意には組み込まれてないって? でも、そんなの分からないじゃない。作ったのも、勝手に設置したのも神帝軍。どうして「そんな事はない」って言い切れるの?」
 それは、とキャニーは言い淀んだ。そんな彼女に、リジェは畳み掛けるように続けた。
「百歩譲って、故意に組み込んでいないとしても、その危険があると知っていたかもしれないでしょ? 神帝軍の上層部は」
「よくある話だね。まぁ、製造上の欠陥はさておき、鑑識からの報告によると、全ての現場で同じ足跡が見つかっている。参拝客のものと思しき足跡の上に残されている事を考えると、この一件に無関係ではないと思われる。また、その足跡を詳しく分析した結果、現場のものとは別の土が混じっているのも確認された」
 身を乗り出したカウボーイ達に、マティアスは1枚の資料を提示する。
 土壌の分析結果のようだ。
「比叡山の土壌に似ているようだよ」
「つまり、その足跡の持ち主は結界の外から来たという事ですね? つまり」
 外部犯の線が濃くなった。安堵の表情を見せたキャニーを、マティアスは片手をあげて制した。
「今の段階では、そうとも言い切れないよ。判断する為の情報が少なすぎるからね。そして、君達はその為に来て貰ったのだよ」
「マテの坊主の言う通りだよ、嬢ちゃん方。先に行って調べてる天舞の親父達と合流しようかね。マテの坊主、まさかアタシ達に現場まで歩いて行けとは言わないね?」
 テキパキと場を仕切り、指示を出したヨネに、マティアスは無造作に放り出してあった鍵を取って立ち上がる。
「男性ならばいざ知らず、女性にそんな事はさせるわけにはいかない。私の車に全員をご招待というわけにはいかないけれどね。‥‥誰か、ワゴンの用意を」
 でも、聞き込みするなら歩くんじゃー?
 尋ねかけて、薫子は途中で思いとどまった。言ったが最後、聞き込みは刑事にやらせて、君達は私とお茶でも‥‥なんて事になりかねない。そう判断したのだ。
「んじゃ、行こうかね。あ、マリちゃんはこの炎天下に出歩くんじゃないよ! 大人しくしといで!」
 ヨネの風呂敷包みを手に、動き始めた仲間と共に外へ出ようとしたマーリを、ヨネが引き留める。首を竦めて、彼女はマティアスを振り返った。
「あの‥‥では、こちらでルチルの耐久度についての実験をさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「それはいいけれど、テスト用のルチルが無くてね。メガテンプルムへ依頼を出しておくけれど、今すぐというのは無理だね。今回は、ゆっくりとここでお茶していたまえ。‥‥彼のように」
 示された先に目を遣って、マーリは一瞬だけ表情を揺らす。
 いつからそこにいたのか。
 壁際の椅子に座り、日本茶を啜っているのは影月だ。
「お戻りになっていたとは気づきませんでした」
「闇執事ですから」
 出かけていく主達を見送り、壁際へと歩み寄ったマーリに、影月は澄ました顔で答えたのだった。

●現場
 寂光院で、彼女達は先行調査に出ていた逢魔と合流した。虚無僧姿の天舞と、暑い中、頭から靴の先まできっちりキメた千代丸の姿に、リージェがまず面食らう。
 そんなリージェに、キャニーが微笑する。
「大丈夫、すぐに慣れますわ」
「慣れ‥‥られるのかな」
 小指を立てて胸ポケットからレェスのハンカチーフを取り出した千代丸を、奇妙な物を見るかのように見てしまう。彼女の凝視に気付いて、千代丸は胸に手を当て、優雅に腰を折った。
「‥‥色んな奴がいるのは分かっているけどね」
 非常線を引かれた一区画を見て、吐き捨てるように呟く。
「分かってるよ。こんな一方的にお膳立てされた平和を有り難がっている人がいるって事も」
「君は、この街があまり好きではないようだね」
 馴れ馴れしく肩に手を回して来た男に銃を突きつけて、リージェはにっこり笑って言い放つ。
「そうね。大嫌い。でも壊したいほどに、とは言わないから安心してよ」
「壊されると、我々は、今度は君を追う事になるね」
 喉の奥で笑って、マティアスはリージェを見た。
「女性を追うのは嫌いではないけれど、その後の無粋な輩の介入を考えると、今ひとつ‥‥」
「危険です」
 2人の間に割って入ったのは、スイだ。
 何があってもキャニーを守るという使命に燃えていた彼女だが、主以外の者の危険を見過ごしておけるはずもなく。子を守る母のごとく、ぎゅっと抱き締めてくるスイの腕から逃れようと藻掻くリージェに、マティアスは溜息をついた。
「本当に、ここでルチルが壊された?」
 非常線で区切られた区画の周囲をぐるっとまわって、薫子は振り返った。リージェとスイの攻防(?)はスルーして、怪訝そうな視線はマティアスに向けられている。
「そうだよ」
「じゃあ、ルチル「だけ」が壊されたんだ‥‥」
 深く吐き出された吐息と力無く落とされた肩。声をかけるのが躊躇われるような薫子の様子に、魔皇達は互いに顔を見合わせると視線を落とす。
「水やるとキラキラ綺麗だったのになぁ‥‥。一体、誰が何の為に壊したんだろーな」
 ルチルは粉々に砕け散っているのに、周囲にはその影響がない。現場は発見された当時のまま保存されているらしいが、地面に焼けた跡も無ければ、線香でさえも折れた様子がない。
「それで、天舞。何か分かりましたか?」
 厳めしい顔で、永遠の逢魔は首を振った。
「何も。念のため、昨夜一晩、この周囲を見回っておりましたが、不審者などもなく。最近、大原近辺は野良サーパントが多く、夜は外を歩くのを控える方も多いとかで、静かな夜でござった」
「おかしいね。京都では野良サーバントの数が減少して来ているはずなんだが」
 前髪をもてあそびながら呟くマティアスの上着の裾を引っ張ると、薫子は真剣な表情で提言する。
「まだ破壊されていないルチルの警備強化と、隠しカメラの設置を考えてみるってのは?」
「それは、ちょっと遅かったようだな」
 答えたのは、捜査本部長ではなかった。
 吹き出す汗を拭い、息切れを起こしている狸小路と共にやって来た連夜は、持っていた資料をマティアスの手にねじ込んだ。
「あんた達が出発してすぐ、捜査本部に連絡が入った。この近くの古寺に設置されてあったルチルが砕かれた。今朝、確認した時には何の異常もなかったが、次に巡回した時には砕け散っていたそうだ」
 昼間の犯行に、魔皇達は一様に言葉を無くす。
「わ‥‥わたくしめは、先ほど、その前を通っておりますが‥‥」
「なんだってぇぇぇっ!? ジジイ! なのに、何も気が付かなかったのかッッ!? バッカじゃねェの!?」
 言葉遣いが一気にごろつきのそれへと変化する。巻き舌で千代丸へと詰め寄った薫子の肩に手を置き、マテイアスはついと指先を伸ばして彼女の顎を捉えた。
「およし。姫君がそんな言葉を使うのは悲しいね。この可憐な唇には甘やかな言葉こそ似合うというのに」
 ぶわっと、剥き出しの腕に鳥肌が立つ。
 顎に添えられた指先を振り払う事も出来ずに、薫子は戦慄く唇を動かした。
「あ‥‥あんた、テリィの親戚かなんかか?」
 どうやら、少々パニクっているらしい。
「テリィ? 君の恋人か何か?」
 こほんと咳払って、連夜は話に戻った。
「前回の事件は目撃者も兆候も見つけられなかった。今回は日中の犯行だ。ルチルが壊された時間前後に、スーツ姿、オールバックの不審な人物が目撃されている」
 その男が今回の1件に関係しているのかどうか不明だが、手がかりには違いない。
 連夜は凍りついた薫子を扇ぎ、解凍させている千代丸を呼んだ。
「千代丸。確か、ルチルの製造関係者に当たっていたはずだな。当時の開発者達に話は聞けたか?」
「速水様!」
 抗議の声をあげたキャニーを制して、連夜は千代丸の答えを待つ。
「はあ、一応は‥‥。ただ、開発責任者だった大天使リューヤ様の所在が知れず、詳しい話は聞けませんでしたが」
 慌てた様子で携帯を取り出したスイを横目に見つつ、連夜は口元を歪めた。
「所在知れず‥‥か。まあ、それも調べればいいさ。今は、姿を見せぬ犯人の目的を推測するよりも、犯人に繋がる手掛かりを得ねばならない。天舞の言う通りならば、近辺の住民で深夜の異変に気付いた者がいるとは考えにくい。捜査の対象と手段を検討し、出直した方が得策だな」
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この小説は株式会社テラネッツが運営する『神魔創世記 アクスディアEXceed/セイクリッドカウボーイ』で作成されたものです。
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